マーケティング・ミックス(4P)の中でも、担当にとって難しい、悩ましい施策が「価格戦略」です。価格戦略は出し値を「いくら」と決めなければならないので、過去実績に比して、競合に比して、という観点から、良し悪しの評価がされやすいところでもあります。

4Pの説明を記述した際に触れた通り、価格設定も戦略に整合してなければなりません。
例えば、「高機能・高付加価値」を訴求したければ、一般的には高価格、「お求め安い、一般的」を訴求したければ一般的には低価格に設定する必要があります。

2000年頃の話だと思いますが、スターバックスが日本市場に参入してしばらくして、ドトールコーヒーがエクセルシオールカフェを、現参議院議員の松田公太さんが日本にタリーズコーヒーを持ってきました。この三社の価格付けがとても判り易かったので、これを元に説明します。

元々、日本市場にはドトールコーヒーというメジャーブランドが展開しており、そこに新たな「カフェ」という業態を提案したのがスターバックスでした。当時のドトールコーヒーがブレンドコーヒー一杯に対して、180円だったのに対して、スターバックスは250円で参入しています。これは、「スターバックスのコーヒーは高級でおいしい」というイメージを付けるための価格である、という事が想像できます。
一方で、ドトール以前からある旧来の喫茶店でのコーヒー価格は、350円〜500円くらいだったように記憶しています。まずはメジャーブランドに対して「高級な価格」、一方で顧客獲得のために、喫茶店よりは安くして「高級イメージを取りながら普及価格」という価格帯を狙ったのではないでしょうか。

さて、しばらくするとエクセルシオールカフェ、タリーズコーヒーが参入してきます。私の記憶に最も明確に残っているのが、
タリーズコーヒー:270円
スターバックス:260円
エクセルシオール:250円
という並びです。(ショートドリップ1杯の価格)

この価格は、カフェ業態では既に強くなっていたスターバックスに対してのポジションをどう作りたいか、ということがポイントだと思います。但し、その前提として、顧客の頭の中にはスターバックスがイメージされてしまっているので、260円という価格帯が「カフェ業態のショートドリップに支払う価格」とイメージされていたことでしょう。
1) タリーズコーヒーの戦略
 当時、「高級でおいしい」というイメージを訴求していたように思います。そのために、価格も「スターバックスより高い」金額を選択していました。値段がおいしさの証だったのでしょうね。

2) エクセルシオールの戦略
 エクセルシオールは、「模倣戦略」です。出来た当初は、スターバックスと間違えて入店してしまうほど類似させていた、という程でした。模倣戦略はあくまで模倣です。が、顧客からすると10円と言うブランド代を出すよりは同じ味でチョットでも安いエクセルシオールの方が良い、と考える方もいらっしゃいます。(実は、当時の私もそうでした。)
 実際に味の差があるかどうかは分かりませんし、「スターバックスの方がおいしい」という方もいたように記憶していますが、価格を下げれば当然需要は出来るものです。顧客からすると、「10円安いなら、安い方が良い」という事なのでしょうね。(恐らく、259円だと顧客を奪うことが出来なかったと思います。)


ポイントは、あくまで「戦略ありきで価格を決める」という事です。その際、考慮すべきは3Cの視点、すなわち、
Cusutomer(市場・顧客):顧客はコーヒーに幾らの価値を感じるのか?
Competitor(競合):競合は幾らの価格で来るのか?(それに対して、顧客は自社を選択してくれるのか?)
Company(自社):自社が訴求したいポイントは?コストを考えた場合にpayする価格か?
という事ですね。

さて、最近のスターバックスのショートドリップ一杯の値段はなんと300円。参入当初から50円、120%アップです。が、私はなんとなく利用してしまっています。これは、
・少しずつ値上げしたので、消費者が価値低下とは考えなかった
・競合と比較してスターバックスの評価が相対的に上がり、高価格でも選んでもらえるようになった
という事です。
なお、現在の2社のショートドリップ一杯の価格は、エクセルシオールカフェ:280円、タリーズ:290円、です。タリーズは残念ながら「高級ポジション」は継続できない(或いは戦略的にしていない)状況になりましたね。それだけ、スターバックスのブランドが強い、という事なのかもしれません。

※価格は記憶に頼って書いています。事実認識が間違っておりましたら、ご指摘下さい。

価格戦略について学びたい方はこちら:「マーケティング・ベーシックス」