シナプス後藤です。
先日、農業経営は難しく、事業として儲からない理由は二つ、と書きました。
[1] 産業として儲からない構造になっている
[2] ボラティリティが異常に高い
このうち、[2]の話です。
ボラティリティとは、変動の激しさを指す言葉で証券業界の用語から広まったのだと思います。(広まったと言っても、金融系やコンサルティング系、もしくはMBAなどが使う用語だと思いますので一般認知は低いかもしれません。)
農業は自然を相手にしますので、収穫量が安定しません。これが、農業が本質的に難しい理由だと私は考えています。
収穫量が不安定になる要素として、大きく3つで捉えると分かりやすいのでは、と考えています。
(1) 収穫期とマクロ的な気候変動
(2) 地域的な天候、地表状況
(3) 人的な要素
(1) 収穫期とマクロ的な気候変動
冬に野菜が高いのは、作物が夏に取れるからです。また、「今年の冷夏だ」というような場合は収量が落ちます。このマクロ的なトレンドが各年、各月の基本的な価格を決定します。需要と供給バランスによって決まりますので、「今年は儲かる」「今年は儲からない」みたいなことがありえます。
(2) 地域的な天候、地表状況
(2)、(3)は個別の農業法人に影響する事象です。たとえば、収穫期にこの地域だけ雨が降った、とすると日照量が減るためその分収穫量が減ったり遅れたりします。作物によって短期的な自然環境の影響を受けやすいもの、受けにくいものがあるようですが、多かれ少なかれ天候の影響は免れません。
(3) 人的な要素
そして三つ目が人的な要素で、(具体的には分かりませんが)剪定や水のやり方、等が影響するのではないでしょうか。
収穫量が不安定になると何が困るのか。
どうやら、この業界は価格コントロールの多くを流通がになっているようです。担っていると言っても決定権を持っている、という事ではなく、需要のコントロールが出来るようなのです。
分かりやすいところで、レストランを考えてみましょう。
レストランにしてみると、「レタスたっぷりシャキシャキサラダ」はレタスが必須です。ですので、これをメニューに挙げると言う事はレタスを必要量調達できることが必須になります。「シェフの気まぐれサラダ」以外の多くのメニューはある程度食材が固定されているため、安定的に供給されることがとても重要になるわけです。
一方で、早めに供給されないことが分かっていれば、メニューから外せば良いので、「前もって分かっていること」が極めて重要な要素になります。
これを予測するのが流通です。例えば、1-2週間前に「レタスがこれくらい入荷される」という事が分かって入れば、レストラン側としても意思決定しやすいでしょう。
そして、流通はその需要量と供給量から価格を決めればよいわけです。
ところが、農家はそんな簡単ではありません。1-2週間前の予測通りに収穫できる可能性は極めて低いからです。
友人に聞いたところだと、「予想より多く収穫されると余ってしまって処分を考えなければならないけど、約束した量が出せないとすると信頼を失ってしまい、今後買い取ってもらえなくなるリスクがある」のだそうです。下振れリスクの方が上振れリスクより重要なのだとすると、下振れしないように、予想量を少なめに言う、というのが業界慣行になっているのではないでしょうか。
そうすると、必ず余ります。(当たり前ですね、低めに予想を出しているのですから。)
だから、余ったものをジュースにしたり加工品にしたりして「出さざるを得ない」状況になるわけです。
こういったリスクが発生してしまうため、農水省や農協は保護政策に走らざるを得ないのかもしれません。全体でみれば良いところは残り、悪いところはつぶれればよい、という考え方もないわけではないのですが、リスクが高すぎるため、「かなり良いところでもたまに致命的なダメージを受ける年がある」ことが想定されてしまいますので、リスクを1法人で吸収できないのでしょう。
これを解消する仕組みの一つが植物工場と言われています。
例えば、グランパというレタス生産のドームハウスがあります。
http://granpa.co.jp/dome.html
これは、コンピュータで自然環境を制御することで、天候や人の手に左右されず安定的にレタスを作る事が出来るシステムです。当然、投資額がかなり大きくなるため、レタス一個当たりのコストは高いのでしょうが、それ以上に安定的に収穫できるというメリットがあります。
常に同じメニューを並べたい外食産業にとって見ると、安定的に調達できると言うのはとても高い価値でしょう。安定していると流通システムなども含めて組み立てやすくなりますし、食材コントロールが容易になります。
※勿論、レストランも需要にばらつきがありますが、ベースだけ調達が確実に出来ていれば、増加分を別のルートから少しだけ調達すればよいわけです。
将来的にはこういった植物工場などの仕組みが導入されて安定化されることで、効率化がおこなわれるのでは、と思っています。
私はこれを「農業の工業化」と呼んでいますが、安定的にコントロールされた状態で生産できれば、様々な創意工夫が起こり、一気にコストダウンが進み、また供給量も増えるのではないか、というように期待しています。
以上、2点、農業が難しい話でした。
参考:
mblog 「農業経営が難しい理由」
mblog 「農業が産業として儲からない構造になっている」
先日、農業経営は難しく、事業として儲からない理由は二つ、と書きました。
[1] 産業として儲からない構造になっている
[2] ボラティリティが異常に高い
このうち、[2]の話です。
ボラティリティとは、変動の激しさを指す言葉で証券業界の用語から広まったのだと思います。(広まったと言っても、金融系やコンサルティング系、もしくはMBAなどが使う用語だと思いますので一般認知は低いかもしれません。)
農業は自然を相手にしますので、収穫量が安定しません。これが、農業が本質的に難しい理由だと私は考えています。
収穫量が不安定になる要素として、大きく3つで捉えると分かりやすいのでは、と考えています。
(1) 収穫期とマクロ的な気候変動
(2) 地域的な天候、地表状況
(3) 人的な要素
(1) 収穫期とマクロ的な気候変動
冬に野菜が高いのは、作物が夏に取れるからです。また、「今年の冷夏だ」というような場合は収量が落ちます。このマクロ的なトレンドが各年、各月の基本的な価格を決定します。需要と供給バランスによって決まりますので、「今年は儲かる」「今年は儲からない」みたいなことがありえます。
(2) 地域的な天候、地表状況
(2)、(3)は個別の農業法人に影響する事象です。たとえば、収穫期にこの地域だけ雨が降った、とすると日照量が減るためその分収穫量が減ったり遅れたりします。作物によって短期的な自然環境の影響を受けやすいもの、受けにくいものがあるようですが、多かれ少なかれ天候の影響は免れません。
(3) 人的な要素
そして三つ目が人的な要素で、(具体的には分かりませんが)剪定や水のやり方、等が影響するのではないでしょうか。
収穫量が不安定になると何が困るのか。
どうやら、この業界は価格コントロールの多くを流通がになっているようです。担っていると言っても決定権を持っている、という事ではなく、需要のコントロールが出来るようなのです。
分かりやすいところで、レストランを考えてみましょう。
レストランにしてみると、「レタスたっぷりシャキシャキサラダ」はレタスが必須です。ですので、これをメニューに挙げると言う事はレタスを必要量調達できることが必須になります。「シェフの気まぐれサラダ」以外の多くのメニューはある程度食材が固定されているため、安定的に供給されることがとても重要になるわけです。
一方で、早めに供給されないことが分かっていれば、メニューから外せば良いので、「前もって分かっていること」が極めて重要な要素になります。
これを予測するのが流通です。例えば、1-2週間前に「レタスがこれくらい入荷される」という事が分かって入れば、レストラン側としても意思決定しやすいでしょう。
そして、流通はその需要量と供給量から価格を決めればよいわけです。
ところが、農家はそんな簡単ではありません。1-2週間前の予測通りに収穫できる可能性は極めて低いからです。
友人に聞いたところだと、「予想より多く収穫されると余ってしまって処分を考えなければならないけど、約束した量が出せないとすると信頼を失ってしまい、今後買い取ってもらえなくなるリスクがある」のだそうです。下振れリスクの方が上振れリスクより重要なのだとすると、下振れしないように、予想量を少なめに言う、というのが業界慣行になっているのではないでしょうか。
そうすると、必ず余ります。(当たり前ですね、低めに予想を出しているのですから。)
だから、余ったものをジュースにしたり加工品にしたりして「出さざるを得ない」状況になるわけです。
こういったリスクが発生してしまうため、農水省や農協は保護政策に走らざるを得ないのかもしれません。全体でみれば良いところは残り、悪いところはつぶれればよい、という考え方もないわけではないのですが、リスクが高すぎるため、「かなり良いところでもたまに致命的なダメージを受ける年がある」ことが想定されてしまいますので、リスクを1法人で吸収できないのでしょう。
これを解消する仕組みの一つが植物工場と言われています。
例えば、グランパというレタス生産のドームハウスがあります。
http://granpa.co.jp/dome.html
これは、コンピュータで自然環境を制御することで、天候や人の手に左右されず安定的にレタスを作る事が出来るシステムです。当然、投資額がかなり大きくなるため、レタス一個当たりのコストは高いのでしょうが、それ以上に安定的に収穫できるというメリットがあります。
常に同じメニューを並べたい外食産業にとって見ると、安定的に調達できると言うのはとても高い価値でしょう。安定していると流通システムなども含めて組み立てやすくなりますし、食材コントロールが容易になります。
※勿論、レストランも需要にばらつきがありますが、ベースだけ調達が確実に出来ていれば、増加分を別のルートから少しだけ調達すればよいわけです。
将来的にはこういった植物工場などの仕組みが導入されて安定化されることで、効率化がおこなわれるのでは、と思っています。
私はこれを「農業の工業化」と呼んでいますが、安定的にコントロールされた状態で生産できれば、様々な創意工夫が起こり、一気にコストダウンが進み、また供給量も増えるのではないか、というように期待しています。
以上、2点、農業が難しい話でした。
参考:
mblog 「農業経営が難しい理由」
mblog 「農業が産業として儲からない構造になっている」