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破壊的イノベーション

今あるものがベストではない

シナプス後藤です。

先日、「フォークの歯はなぜ四本になったか」という本を読みました。
フォークの歯はなぜ四本になったか 実用品の進化論 (平凡社ライブラリー)「フォークの歯はなぜ四本になったか 実用品の進化論」ヘンリー・ペトロスキー著 (平凡社ライブラリー)

この本は、モノがある形になるのにどのような経緯でなったか、と言う事を考えた本で、「インダストリアル・デザインのあり方」について語っています。

この本によると、モノのデザインと言うものは最初から「完璧な形」になったわけではなく、様々な使いにくさ、不便さを少しずつ改良することによって現在の形になった、と言う事です。

例えば、何かを食べるのに、主に、フランス人はナイフとフォーク、日本人は箸を使います。これはフランス人がナイフとフォークに適していた、日本人が箸に適していた、という事ではなくたまたまそういう進化をしてしまった、と言う事です。

何かを食べるのに、最初は木の枝を突き刺していた。それが不便なので欧州では二又になった木の枝で刺すようになった。アジアでは二本の枝で刺すようになった、とたったそれだけの差かもしれませんが、それが進化してそれぞれフォークと箸の違いになっただろう、と言うわけです。


我々は突然変異的に新しいモノを考えるのは得意ではありません。むしろ、不便を感じている課題に対して解決策を提示する方がよほど楽です。たとえばフォークで言えば、二本歯だと刺したものが落ちてしまうので、三本歯、四本歯と増えた方が良い。ただ、五本歯くらいになると余りにしっかり刺さってしまってむしろ食べにくい。だから、四本歯くらいがちょうどよい、と言う事で今の多くのフォークは四本歯になっているわけです。
フォークをどれだけ進化させても箸には辿りつかないでしょう。
近いモノとしてはトングがあります。これはスプーンとフォークを合体させたようなものでモノを取り分けるために「挟む」と言う目的によりフォーカスしたものです。


残念ながら、ナイフとフォークの文化から突然変異的に箸が登場する、と言う事はほとんどないでしょう。なぜならば、上述通り、突然変異的新しいモノを考えるのが得意ではないからで、多くのものは漸進的に変化していくことになります。
仮に突然変異的に新しいモノが出来たとしても、多くの場合は「慣れていないから使われない」と言う事になるでしょう。(それが「破壊的イノベーション」と呼ばれることにもなるのでしょうけど。)


ただし、忘れてはいけないのは、今のものがベストな形ではない、と言う事です。あくまでも発見された様々な課題を少しずつ改良してきたものが今あるものであって、「本質的にベストな形」を目指して作られたものではないからです。


あらゆる「多くの人に使われている」モノは必ずその形になった歴史的な経緯があります。必然と言っても良いでしょう。ただし、それが唯一解ではない、と言う事もまた事実。言い換えれば、あらゆる「多くの人に使われている」モノにはイノベーションの機会があると言う事です。ただ、その機会を発見し実現するのはとても難しい、と言うだけです。

破壊的イノベーションに関するエントリー:
「破壊的イノベーション」と技術革新の関連性
クリステンセン教授の話を聞く

クリステンセン教授の話を聞く

シナプス後藤です。

昨日、HRD Japan 2012のセッション「How to Create New Growth Business」に参加してきました。
HRD Japanとは、人材開発系のカンファレンスで、その中でもこのセッションは目玉の一つだと思いますが、イノベーションのジレンマで有名なハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授の講演でした。
ただ、残念ながらテレビ会議のセッションで、その代わり、一橋大学イノベーション研究センター センター長の米倉誠一郎教授がファシリテーターとして参加されていました。

イノベーションのジレンマは、「大企業がかかる不治の病」をマネジャーのスキルの問題ではなくメカニズムとして説明した優れた本です。イノベーションに関する理論はこの「破壊的イノベーション」をきっかけに大きく進展したのではないかな、と思います。

講演は、イノベーションのジレンマで書かれている内容をなぞった様なものではありましたが、本人の口から聞く、と言う意味でとても意義深いものでした。私からすると、「あぁ、やっぱりそうだよね」と言う感覚です。

ざっと私のメモを見ながら起こしてみました。
他にもいくつか議論はあるのですが、纏めやすいポイントを纏めてみました。

■破壊的イノベーションとは?
・破壊的イノベーションとは、「劣悪な品質のものが低利益率の市場に参入し徐々に高品質・高利益の市場を犯していくこと」である。
 −革新的な技術によって市場を破壊する、という意味ではない
・例えば、鉄鋼業界では、一貫型工場から、minimill(10m程度の路で廃鉄等から鉄を作る)へシフトをして行ったメカニズムについて説明
 −一貫型の工場は低粗利(7%)の鉄筋コンクリート市場から、より高粗利の自動車向け等を市場として占有していた
 −minimillが生まれると、低粗利の鉄筋コンクリート市場に参入した。(コストは20%安かった)
 −そのため、一貫型は「より儲かる市場へシフト」した→資本効率は高品質の市場の方がずっと高い
 −minimillのプレイヤーは小規模企業も多かったが、戦略性が無かったため、一貫型工場が鉄筋コンクリート市場からいなくなった瞬間、価格競争に陥った。・・・つまり、戦略性があったわけではないことを意味する
 −価格競争に陥り、儲からなくなったminimillプレイヤーは次の市場としてAngle Iron(山形鉄材)へ参入した。(粗利率12%)
  →以後、一貫型工場はドンドン高品質の市場にシフトし、最後には市場から駆逐される

※Sheet Steel(板金、金属薄板。自動車等に利用される)の粗利率は25-30%であり、より高品質にシフトする方が資本効率は高い

この本質的な意味は、マネジャーの能力がないから、ではなく、マネジャーの能力が高いがゆえに起こったことであり、大企業の宿命であると言う事。

■破壊的イノベーションがアウトソーシングでも起こる
 DellはAsusTek(台湾のPC製造メーカー)に次のように殺されて行った
 1) AsusTekは回路基板メーカーだった
 2) Dellに対して、マザーボード製造のアウトソースを提案
  Dellは本業ではない(利益率低い)と判断し、マザーボード製造を委託
 3) 次に、アッセンブルのアウトソースを提案
  同様の意思決定をし、サプライチェーンとロジスティクス、製品デザインのアウトソースを提案
  Dellは「ブランド」を本業として製造部分を委託
 4) AsusTekはBestBuy(小売)に対して、Brandを提案
  「小売はDellブランドを売らなくても良いのではないか?」

■なぜ、大企業が破壊的イノベーションに投資しないのか?
 New Financeの宗教(宣教師はMBA教授やVC、ファンドのパートナー)が資本効率を高める経営を推進した。
 →RONA(Return on Net Assets)を中心とした評価基準
  そのために、「Assetを減らして儲かる市場に集中する」という意思決定が推進されるようになった

■破壊的イノベーションに対する解決策
 ※米倉教授は、「そもそも大企業にとって不治の病なので、解決策は無い。  スピンアウトすべし」と言う主張ですが、、、
 1) 国家レベルでは長期の資金や施策に対する税制緩和によって、今の評価基準でも投資されやすい状況を作ることは可能
 2) 企業内では「別の事業部隊」を立ち上げる必要があるIBMはメインフレームが本業だったころ、PCの部隊は距離的に離れた場所に作った。既存の事業の干渉を受けないようにする必要がある

なお、New Financeに対して、新しい評価基準が必要、という指摘に対して、クリステンセン教授は解を持っていませんでした。
つまり、今のところは、破壊的イノベーションを大企業内でコントロールする評価基準は存在しない、と言う事で、資本効率を追いかける限り、イノベーションのジレンマが大企業を殺し続ける、と言う事ですね。


クリステンセン教授の主張の面白いところは、これは組織論、文化論ではなく、戦略論であり、メカニズム論である、と言うところでしょうか。
破壊的イノベーションに対して、組織や文化の形態は関係ない。一般的に言われる、「日本企業ではイノベーションが生まれにくい」と言うような文脈とは関係なく起こる話です。特に経営者が経済合理性について誠実であればある程、イノベーションのジレンマにはまる、と言う事です。


誤解のないように書いておくと、「破壊的イノベーション」は幾つかの条件がありますので、破壊的でないイノベーションもたくさんあります。たとえば、携帯電話にとってのiPhone、MySpaceやMixiにとってのfacebook、LINEは破壊的イノベーションの定義からは外れるように思います。
これらは競合サービスとして優れていた、と言う事ですね。

典型的な破壊的イノベーションは、「品質が低く、価格も安い」という状況で上述の鉄鋼業界はまさにそれに当てはまります。
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