シナプス後藤です。

コトラーのイノベーション・マーケティングを読みました。
マーケティング・カンパニーにいて、イノベーションについて研究している立場上、読まないわけにいかないだろうと。(笑)

コトラーのイノベーション・マーケティング
コトラーのイノベーション・マーケティング

イノベーションと言えば、クレイトン・クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」が有名ですね。イノベーションのジレンマの続編の続編の解説本、「イノベーションへの解 実践編」では、イノベーションはこういうステップで実践する、と述べています。これは、やるべきことをプロセス化したものです。

一方、著者フェルナンド・トリアス・デ・ベス氏は「プロセスをあらかじめ定めるのではなく、参加者が自発的なやり取りや必要に触発されて、自らプロセスを設計する」(一部略)と言っています。つまり、プロセス定義自体が無理なので、プロセスを作り出す、あるいは担う役割を定義しましょう、と言うのが主張です。
発想としては、ミンツバーグ教授が提唱している「創発的戦略」つまり、状況に応じてプロセスは変わっていくことが前提になる、と言う事と同じですね。

さて、本書のメインの主張は、A-Fモデルであり、これは先に述べたそれぞれの役割を示しています。すなわち、A:アクティベーター、B:ブラウザ、C:クリエイター、D:ディベロッパー、E:エグゼキューター、F:ファシリテーター、です。

A:アクティベーターとは、「やろうぜ」という人ですね。イノベーションのきっかけを作る人、くらいに考えても良いかもしれません。
B:ブラウザとは、情報を収集整理する人。イノベーションは、「新しいものの見方や考え方が必要」ですが、このものの見方のヒントとなる情報をどれだけ取れるかが重要になります。その情報を整理、分析する役割がブラウザで、結構重要な位置付けと思います。
C:クリエイターは、イノベーションの「ジャンプ」を創りだす人です。多くの場合、この「ジャンプ」が難しい、と言いいますが、著者は、イノベーションを起こすための創造性は特殊な才能ではないと言っています。無いのは技法やツールで、正しく学んでいればイノベーションを起こすに足る程度の想像的なアイディアは出るだろう、と言う事ですね。
D:ディベロッパーは、クリエイターが考えたアイディアを「モノにする」役割です。製品イノベーションの場合は、誰かがデザインしたものを開発する開発者そのものですし、プロセスイノベーションやビジネスモデルイノベーションであれば、クリエイターによって創られた戦略に対して戦術を考える人、と言うイメージです。
E:エグゼキューターは、実行する人、「変革を担う人」と呼んでも良いかもしれません。この辺の話はマーケティングよりリーダーシップ論寄りですね。
F:ファシリテーターは、どちらかと言うと、「プロジェクトマネジャー」「プロジェクトリーダー」と言うのに近いイメージですが、最も重要なポイントは、「プロセスを自分たちで定義していくこと」です。


個人的に面白いな、と思ったのは、「イノベーションのレベル」ですね。
一般にイノベーションの種類として、ビジネスモデルイノベーション、プロセスイノベーション、プロダクトイノベーション、の三つがあると言われます。出典を失念してしまいましたが、プロダクトライフサイクル、あるいは、市場ライフサイクルの段階によって、イノベーションのタイプが変わる、と言う方もいらっしゃいます。
成長期には、製品が革新的になりつつづけるので、製品イノベーションが重要であり、成熟期にはプロセス革新で利益率を上げ、衰退期にはいる前にビジネスモデルを革新してさらなる成長期を作り出す、という流れですね。

この本での整理は、Lv1:ビジネスモデル、Lv2:プロセス、Lv3:市場イノベーション、Lv4:製品orサービスイノベーション、であると述べています。市場イノベーションは、余り他では見ませんが、要するに顧客を新しくする、と言う事ですね。例えば、今までゲーマー向けのゲームを提供していたのを「一般の人たち」にすそ野を広げた任天堂Wiiなどがそれにあたるかもしれません。

Lv1とLv4では、1の方がエライ、4の方がエライ、と言う話ではなく、「誰が責任者になるべきか」という整理であり、この視点が興味深いです。
イノベーションの難しさは、そのアイディアを作り出すことよりもむしろ組織として実践することである、と思いますが、著者も近い主張をしているように感じます。つまり、「アイディアを作り出す事とイノベーションを実践することは違う」と言う事です。
そして、実践段階においては、ビジネスモデルは全社的に影響することが多く、経営層、出来ればトップが関わらなくてはならない一方で、プロセスであれば、事業部長クラス、市場ならマーケティング部長、製品なら、開発部か研究セクションか、が関わっていればよい、と言う事ですね。


また、折をみて第二部についても書こうと思いますが、一旦このへんで。

全体感からすると、イノベーションの一つの切り口としてとても面白いと思います。確かに、記載されている通り「役割」という側面から書いた本は少ないかもしれません。

気になる方は一度手に取って見てください。