シナプスマーケティング・カレッジの名和田です。

このブログを活用し、「小が大に勝つ戦略」と題して何度かに渡り、
ランチェスター戦略の概要を投稿してきたが、この4月を契機に
掲載を再開したいと思います。

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ここで改めて、現在ビジネスの世界で、一般的に「ランチェスター戦略」
といわれているものについて確認してみたい。

まず、「ランチェスター戦略」とは、日本経済が高度成長から低成長へと
移行し、販売競争が激化した時期(1972年)マーケティングコンサルタントで
あった故田岡信夫氏が構築した競争戦略の理論と実務体系である。

これは、「ランチェスター法則」、「ランチェスター戦略モデル式(クープマンモデル)」、「田岡・斧田シェア理論」をベースに開発した競争戦略論である。

田岡氏が、「ランチェスター販売戦略」を著して以降、多くの実務家(経営者)がこれを学び、自社戦略に取り入れ、成功を収める。

例えば、あの松下幸之助氏は、田岡氏の提案により、松下電器産業の販売店がランチェスター戦略を実践する為の「会」(泉会)まで創設する力の入れようだった。

そもそもは軍事戦略理論であったランチェスター法則を戦略思想に捉え、経営に応用したことから、ランチェスター戦略と呼ばれるが、正確には「田岡理論」あるいは、「田岡式販売戦略」などと呼ぶ方が妥当といえる。

では「ランチェスター法則」とは何か?
これは以前にも書いたことが有るが改めて・・・・。

●ランチェスター法則

第1次世界大戦のころ、イギリスの航空工学のエンジニア
F・W・ランチェスターが発見した軍事理論。

「武器と兵力数が戦闘力を定め、敵に与える損害量を決定づける。」
この法則を発見。
そこから、以下2つの法則を導き出す。

・一騎打ちの法則と呼ばれる「第一法則」
・集団戦闘の法則と言われる「第二法則」

両法則とも技術が一定であれば兵力数によって戦闘力が決まること。
第二法則では、第一法則よりも兵力数がさらに効き、二乗倍の戦闘力に結びつくこと、この2つが数学的結論である。

つまり、
■第一法則では⇒ 戦闘力 = E(武器効率)× 兵力数
■第二法則では⇒ 戦闘力 = E(武器効率)× 兵力数の2乗

となる。

まず、これが「ランチェスター法則」である。
そして、第一法則からは「弱者の戦略」が、
第二法則からは、「強者の戦略」が導き出された。

さらに、これを基に研究し発展応用させたのが、「ランチェスター戦略方程式」、
「ランチェスター戦略モデル式」と言われる「クープマンモデル」である。


●クープマンモデル

第2次世界大戦時に、米軍は米国海軍作戦研究班(オペレーションズ・リサーチ・チーム/OR=作戦研究)を編成し、戦争を科学的、数学的に研究させた。

そこに徴用された、米国コロンビア大学の数学教授B・O・クープマンらは、
アメリカ軍の軍事戦略を策定する際に「ランチェスター法則」に着眼し、
これを研究。そこから、「ランチェスター戦略モデル式」(=クープマンモデル)
を導き出した。

戦闘力を「敵軍と戦う直接的な力」=「戦術力」
「敵軍の後方を攻撃し敵が戦争をすることを困難にする間接的な力」=「戦略力」
に分けてとらえる。
そして、その比率を「戦術力1:戦略力2」にする時、最も戦力が高まることを
方程式で示した。

※戦術力の損失と戦略力の減少を示す格比例定数の間の相互関係を微分方程式とし、
ゲームの理論の最大・最小原則の適用で、敵味方の損害が均衡する状態を公式化。


●田岡・斧田シェア理論

そして、故田岡信夫氏と社会統計学者の斧田太公望氏が、
1962年、クープマンモデルを解析し導き出したのが「市場シェア3大目標数値」である。
さらに田岡氏は、4つの目標シンボル数値を算出し、市場占拠率の目標数値モデルを完成させた。


これが有名な7つのシンボル目標数値である。

 
■73.9%
(上限目標値)
独占的となり、その地位は絶対的に安全となる。
ただし、一社独占は必ずしも安全とはいえない。

■41.7%
(安定目標値)
地位が圧倒的に有利となり立場が安定する40%
は首位独走の条件として多くの企業の目標値。

■26.1%
(下限目標値)
トップの地位に立つことができる強者の最低条件。
安定不安定の境目。これを下回ると1位であっても、
その地位は安定しない。

■19.3%
(上位目標値)
ドングリの背比べ状態の中で上位グループに入れる。
弱者の中の強者。(26.1×73.9)

■10.9%
(影響目標値)
市場全体に影響を与えるようになり、シェア争いに
本格参入。10%足がかり。(26.1×41.7)

■6.8%
(存在目標値)
競合者に存在を認められるが、市場への影響力はない。
これ未満を撤退の基準として使われる場合もある。
(26.1×26.1)

■2.8%
(拠点目標値)
存在価値はないに等しいが、橋頭堡となりうる。
2.8%までは市場参入戦略を適用。2.8%から
競争戦略を適用。(6.8×41.7)

これは、現在の自社のシェアはどの段階なのか、
そして短期・中期・長期にはどこまで伸ばしていく必要が有るのか、
現状分析と目標設定に活用する判断基準となる。

このシェアの理論に「3:1」の法則を応用し、敵味方のシェア差がどこまで開けば競争戦略上、逆転が困難になるかを示す。(=射程距離理論)

さらに3つの結論へとつながっていくのだが、今回はここまでにしておきたい。
この辺りはまた追々。

ちなみに先日、シナプスでも講師を務める金森氏が興味深いブログ記事を
投稿していた。

http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2009/04/post-6b9d.html

氏は、日本コカ・コーラvsサントリー(フーズ)のシェア争いを戦略セオリーを通して解説している。

競争理論でいうところの市場細分化アプローチ(コトラーの競争的マーケティング戦略)である。
これは当然のことながら、ランチェスター戦略でも解釈することが出来る。
次回はこの辺りを見ていくことにしよう。



文責:名和田

参考文献:「ランチェスター思考」
     「ランチェスター戦略学会資料」
     「ランチェスター戦略30の共通言語」