先日、弊社の定期イベント「第三回 シナプス・マーケティング・コミュニティ」にて、高級マットレスを中心に扱う株式会社シーリージャパン(http://www.sealy-bed.co.jp/)の西村社長に講演していただきました。

テーマはブランド戦略でしたが、ブランドの説明を企業価値観点から入ったあたりは、元バンカーとしてのご経験によるものでしょうか。「ブランド」と言うものを何か雲を掴むような概念としてではなく、DCF法を中心とした、FCF等で算出される理論企業価値と、市場評価による企業価値の差分、として説明されていました。これは、単純に「商品のブランド」というだけでなく、企業が生み出すFCFへのブランド力、とも取れますが、恐らく、ブランドに対しても、ROIを意識しながら投資していく、という姿勢の現れなのでしょう。

シーリージャパン社のマットレスは、ザ・リッツ・カールトン東京や、フォーシーズンズホテル、ザ・ウィンザーホテル洞爺 リゾート&スパなど、主に外資系の一流ホテル(ラグジュアリーホテル)に採用されています。シーリージャパン社は、シーリー社の日本法人ですが、ワールドワイドで見れば、30年連続全米シェアNo.1、世界30カ国で展開、と言うグローバルブランドです。

シーリー社のブランディング戦略は、大きく次のスタンスを取っているようです。
・基本的には、徹底的な高級ブランドの訴求
Actionとしては、
・パブリシティを重視する。
・BtoBとBtoCへのプロモーションに相乗効果を期待する。
・常にROIを意識し、投資をコントロールする。
辺りが浮かびます。奇をてらった策を用いるより、基本に忠実に、着実に実施していくことによって成功しています。「当たり前のことを当たり前のようにやると成果はついてくる」という成功例のように思いました。

個人的に、施策として面白かったのは、ハーゲンダッツジャパンと組んで行った「至福のベッドコンサート」と140万円のマットレスの発売、でしょうか。

「至福のベッドコンサート」は、シーリーのベッドに横たわり、ハーゲンダッツのアイスクリームを食べながら、クラシックコンサートを聴こう、と言うものです。シーリージャパン社の狙いとしては、コラボレーションによってメディアへ露出し、認知度を高めることのようです。一方、ハーゲンダッツからすると、シーリーと言うブランドとコラボレーションすることによって、ハーゲンダッツのブランドを上げたいのでは、と思いました。ハーゲンダッツは高級でしょうが、単価が安い商品のために、誰にでも手の届く贅沢になりがちです。余りに高級にしすぎてしまうと、ターゲットが狭まってしまい、売上が落ちるでしょうし、広すぎると価格競争に陥ってしまう。こういった施策によってブランド価値を守っているのかもしれません。

一方、マットレス(http://www.sealy-bed.co.jp/catalog/pdf/s&f.pdf)は、ジャパンとして企画した商品のようです。これはターゲットを所謂富裕層に絞った商品で、販売チャネルは百貨店外販だけ、商品にはシリアル番号を付けて、OnlyOneを訴求、など、4P施策も基本戦略に合わせて打っています。所謂フラグシップ商品として発売したおかげで、今まであまり出ていなかった最高級商品(50万円クラス)が結構出るようになったとの事。
今まで、ベッドの寝台を含めて100万以上、というのはあったらしいのですが、寝台の木の部分などに殆どのコストがかかっていて、マットレスそのものが100万円を超えると言うのは世界初だそうです。

これらの成功は、どうやら社長の経営手腕にありそうな気がします。銀行時代に培った経営、特に数字に対する深い知見をベースに、当たり前のことを当たり前のようにきっちりやる。その上で、プロモーション部分などは外部からプロを招聘して、きちんと任せる。こういった、当たり前だけど実行するのが難しいことを着実に実施していった成果なのではないでしょうか。

ただ、残念ながら、彼らの成果である高級マットレスで寝るのは、私にはまだまだ早そうです。