シナプス後藤です。
先日、友人から「戦略的には重要なのだが、受けると赤字案件になりそうだ。どう考えればよいと思うか?」という質問を頂きました。
戦略的に低価格で受注する、ということがありますが、どのようなケースであれば値下げをしてでも受注すべきなのでしょうか?
ポイントは、投資と考えてその投資対効果を評価する事でしょう。
また、次の4つのシーンで値下げをしてでも受注する事が多いので、整理しています。
1) 商品開発投資
2) 固定費負担を減らす
3) 顧客開拓
4) ブランド確立
さて、価格設定は利益に直結するだけに重要な意思決定ですが、価格交渉にあった場合の値付けはなかなか難しいところもあります。
よく「戦略的価格」という表現をすることもありますが、安値受注はどういうシーンでは許されて、どう言うシーンでは許されないのかを知っておくと間違いが減ります。
なお、「戦略的に安値受注します!」という発言のほとんどは戦略的でも何でもなく単なる利益を減らす行為です。
まず、値下げをしてでも受する注、というのはどう言う事でしょうか?
単なる言い訳や誤認であることを除くと、大きく二つのパターンがあります。
・低価格戦略で行く
・投資と考える
前者の場合、予め値引き余地を決めておき、「この企業は安い」というイメージを持ってもらう戦略です。BtoB型の場合は特に、「値下げをさせた」という事実が担当の実績になることもありますので、基本価格は高めに、実勢価格は低めに、というのも一つのやり方でしょう。
一方で、後者の場合が特に難しいところで、場合によっては赤字になるレベルで値引きをする、というケースも想定されます。ですが、投資と考える、というくらいですから、この値下げが結果的にもっと大きな利益につながる必要があります。
すなわち、戦略的安値受注、ということは、「安値受注すると、結果的にもっと大きな利益を上げられる」ということであり、言い換えれば、投資対効果を算出すべきである、という事になります。ここでは後者の場合を取り扱います。
では、戦略的な安値受注が許されるパターンにはどのようなものがあるでしょうか?
細かいものも入れると色々とありますが、代表的なのは下記の4つでしょうか。
1) 商品開発投資
2) 固定費負担を減らす
3) 顧客開拓
4) ブランド確立
1) 商品開発投資
商品開発投資はBtoB型のビジネスでは良く取られるパターンですが、顧客との共同開発等によって、新しい商品を作り横展開によって儲けを狙うものです。開発費の幾分かを顧客に負担してもらえれば、投資回収もしやすくなります。
このパターン、特に商品開発で最も気をつけなければ行けないのは、商品企画が練られている必要があると言う事です。良くある失敗として、顧客と共同開発するのは良いが、余りに個社の事情に合わせ過ぎてしまい、横展開が出来なかった、というケースが見られます。(特に、受託型ビジネスを行っている企業が横展開したい場合に起こります。)
ですので、商品開発を理由にした「戦略的安値受注」の場合は、商品企画のレビューをしっかりやると良いでしょう。
なお、似たようなものに、人材開発投資として安値受注する、というケースもあります。但し、人材育成を狙った安値受注は本来提供できる価値よりも低くなっていることが多く、実態としては安値受注とは言いにくいのでここからは外しています。
2) 固定費負担を減らす
固定費が大きいビジネスの場合、例えば、大規模な生産ラインを保有するメーカーやホテルの部屋等リソースの稼働が重要なケースでは、どれだけ固定資産を稼働させるかが利益に大きく影響します。
例えば、携帯電話のキャリア(docomo、AU、softbank)は端末をゼロ円で販売する事があります。これは、基地局の設置コストが極めて大きくそれが固定費になるため、固定費を負担してくれる通信基本料を払ってくれれば、結果的に利益につながるからです。また、最近、アパホテルが1泊3万円を取ることで話題になりましたが、これも同じ話です。需要が多ければ高くし、需要が少なければ安くする。安くしても部屋を稼働させた方が結果的に良いわけですから、安値受注する事で短期的にも儲かるのです。
このパターンの注意点は損益分岐点を明確にしておく事でしょう。会計の本を読むと多くの場合「費用は変動費と固定費に分かれる」と書かれていますが、実際のビジネスではある側面では変動費、ある側面では固定費、というような曖昧な費用(準固定費)がほとんどです。従って、損益分岐点が良く分からない、或いは誤認していることも往々にありえます。自社の損益構造がどのようになっているかを理解する事で安値受注の是非が論じやすくなります。
3) 顧客開拓
顧客に商品を体験してもらう、というのは商品の価値を理解して貰う上で極めて重要な事です。また、特にBtoB環境においては、「口座を作る」(≒一度、取引をする)という事そのものが今後の取引においてプラスに働きます。従って、低価格で商品を試して貰う事で継続顧客になってもらう可能性が十分あります。例えば基礎化粧品は「肌に合う、合わない」が商品購入に置いて重要な要素なので、無料サンプルやお試しセットを最初から準備しています。これも一つの顧客開拓のための安値受注と呼べるでしょう。
1989年に富士通1円入札事件、というものがありました。これは、富士通が広島市水道局のシステムを1円で受注したものです。これはまさに戦略的な安値受注でこれで落札できると翌年度以降に計上された予算を丸々受注できるというもので、中長期的にはかなりの利益が期待できます。そのため、今では1円入札は独禁法で制限されています。
また、「返報性の原理」を利用する場合もこれに当たります。返報性の原理とは、受けた恩は返したくなる、という人間の心理で、これを利用した営業テクニックの説明は山ほどあります。一度、恩を売っておけば、何らかの形で返してくれるため、結果的に利益が出る事が期待できます。
このパターンの注意点は、リピート性の商材でないと効かない、という事でしょう。一度購入すると確実に継続取引がある、というものでないと単なる赤字で終わってしまいます。その点で保守メンテナンスがあるシステムや、リピート率の高い基礎化粧品は投資対効果の期待できる商材とも言えます。
4) ブランド確立
BtoCの場合であれば著名人、BtoBであれば業界No.1プレイヤーがその商品を使っている、というのはブランド形成において非常に効果を発揮します。BtoCの場合は無料配布するケースもありますが、やはり「金を出して買っている」という事に重要なブランド効果があるでしょう。
このパターンの注意点は、ブランド投資の費用対効果を算出できる事でしょう。例えば、BtoCであれば「この著名人が使った場合、どの程度宣伝してくれるのか?」、BtoBであれば「この企業が使う事で何社獲得できそうか?」というような数値に換算する必要があるでしょう。それが広告費や販促費よりもリーズナブルなのであれば投資対効果はpayするでしょうし、広告費や販促費をかけた方が良いのであれば、単純値引きに他なりません。
なお、いずれのケースでも一度安値を提示してしまうと、値崩れして結果的に正規の値段に戻せなくなるケースがあります。ですので、自社の価格感が維持できるかどうか、という観点でも検証しておくことをお薦めします。
以上、値下げをしてでも受注するパターンをまとめてみました。
代表的なパターンとして、次の四つがありますが、どれも注意点を忘れないようにして頂けると良いのではないかと思います。
1) 商品開発投資
2) 固定費負担を減らす
3) 顧客開拓
4) ブランド確立
先日、友人から「戦略的には重要なのだが、受けると赤字案件になりそうだ。どう考えればよいと思うか?」という質問を頂きました。
戦略的に低価格で受注する、ということがありますが、どのようなケースであれば値下げをしてでも受注すべきなのでしょうか?
ポイントは、投資と考えてその投資対効果を評価する事でしょう。
また、次の4つのシーンで値下げをしてでも受注する事が多いので、整理しています。
1) 商品開発投資
2) 固定費負担を減らす
3) 顧客開拓
4) ブランド確立
さて、価格設定は利益に直結するだけに重要な意思決定ですが、価格交渉にあった場合の値付けはなかなか難しいところもあります。
よく「戦略的価格」という表現をすることもありますが、安値受注はどういうシーンでは許されて、どう言うシーンでは許されないのかを知っておくと間違いが減ります。
なお、「戦略的に安値受注します!」という発言のほとんどは戦略的でも何でもなく単なる利益を減らす行為です。
まず、値下げをしてでも受する注、というのはどう言う事でしょうか?
単なる言い訳や誤認であることを除くと、大きく二つのパターンがあります。
・低価格戦略で行く
・投資と考える
前者の場合、予め値引き余地を決めておき、「この企業は安い」というイメージを持ってもらう戦略です。BtoB型の場合は特に、「値下げをさせた」という事実が担当の実績になることもありますので、基本価格は高めに、実勢価格は低めに、というのも一つのやり方でしょう。
一方で、後者の場合が特に難しいところで、場合によっては赤字になるレベルで値引きをする、というケースも想定されます。ですが、投資と考える、というくらいですから、この値下げが結果的にもっと大きな利益につながる必要があります。
すなわち、戦略的安値受注、ということは、「安値受注すると、結果的にもっと大きな利益を上げられる」ということであり、言い換えれば、投資対効果を算出すべきである、という事になります。ここでは後者の場合を取り扱います。
では、戦略的な安値受注が許されるパターンにはどのようなものがあるでしょうか?
細かいものも入れると色々とありますが、代表的なのは下記の4つでしょうか。
1) 商品開発投資
2) 固定費負担を減らす
3) 顧客開拓
4) ブランド確立
1) 商品開発投資
商品開発投資はBtoB型のビジネスでは良く取られるパターンですが、顧客との共同開発等によって、新しい商品を作り横展開によって儲けを狙うものです。開発費の幾分かを顧客に負担してもらえれば、投資回収もしやすくなります。
このパターン、特に商品開発で最も気をつけなければ行けないのは、商品企画が練られている必要があると言う事です。良くある失敗として、顧客と共同開発するのは良いが、余りに個社の事情に合わせ過ぎてしまい、横展開が出来なかった、というケースが見られます。(特に、受託型ビジネスを行っている企業が横展開したい場合に起こります。)
ですので、商品開発を理由にした「戦略的安値受注」の場合は、商品企画のレビューをしっかりやると良いでしょう。
なお、似たようなものに、人材開発投資として安値受注する、というケースもあります。但し、人材育成を狙った安値受注は本来提供できる価値よりも低くなっていることが多く、実態としては安値受注とは言いにくいのでここからは外しています。
2) 固定費負担を減らす
固定費が大きいビジネスの場合、例えば、大規模な生産ラインを保有するメーカーやホテルの部屋等リソースの稼働が重要なケースでは、どれだけ固定資産を稼働させるかが利益に大きく影響します。
例えば、携帯電話のキャリア(docomo、AU、softbank)は端末をゼロ円で販売する事があります。これは、基地局の設置コストが極めて大きくそれが固定費になるため、固定費を負担してくれる通信基本料を払ってくれれば、結果的に利益につながるからです。また、最近、アパホテルが1泊3万円を取ることで話題になりましたが、これも同じ話です。需要が多ければ高くし、需要が少なければ安くする。安くしても部屋を稼働させた方が結果的に良いわけですから、安値受注する事で短期的にも儲かるのです。
このパターンの注意点は損益分岐点を明確にしておく事でしょう。会計の本を読むと多くの場合「費用は変動費と固定費に分かれる」と書かれていますが、実際のビジネスではある側面では変動費、ある側面では固定費、というような曖昧な費用(準固定費)がほとんどです。従って、損益分岐点が良く分からない、或いは誤認していることも往々にありえます。自社の損益構造がどのようになっているかを理解する事で安値受注の是非が論じやすくなります。
3) 顧客開拓
顧客に商品を体験してもらう、というのは商品の価値を理解して貰う上で極めて重要な事です。また、特にBtoB環境においては、「口座を作る」(≒一度、取引をする)という事そのものが今後の取引においてプラスに働きます。従って、低価格で商品を試して貰う事で継続顧客になってもらう可能性が十分あります。例えば基礎化粧品は「肌に合う、合わない」が商品購入に置いて重要な要素なので、無料サンプルやお試しセットを最初から準備しています。これも一つの顧客開拓のための安値受注と呼べるでしょう。
1989年に富士通1円入札事件、というものがありました。これは、富士通が広島市水道局のシステムを1円で受注したものです。これはまさに戦略的な安値受注でこれで落札できると翌年度以降に計上された予算を丸々受注できるというもので、中長期的にはかなりの利益が期待できます。そのため、今では1円入札は独禁法で制限されています。
また、「返報性の原理」を利用する場合もこれに当たります。返報性の原理とは、受けた恩は返したくなる、という人間の心理で、これを利用した営業テクニックの説明は山ほどあります。一度、恩を売っておけば、何らかの形で返してくれるため、結果的に利益が出る事が期待できます。
このパターンの注意点は、リピート性の商材でないと効かない、という事でしょう。一度購入すると確実に継続取引がある、というものでないと単なる赤字で終わってしまいます。その点で保守メンテナンスがあるシステムや、リピート率の高い基礎化粧品は投資対効果の期待できる商材とも言えます。
4) ブランド確立
BtoCの場合であれば著名人、BtoBであれば業界No.1プレイヤーがその商品を使っている、というのはブランド形成において非常に効果を発揮します。BtoCの場合は無料配布するケースもありますが、やはり「金を出して買っている」という事に重要なブランド効果があるでしょう。
このパターンの注意点は、ブランド投資の費用対効果を算出できる事でしょう。例えば、BtoCであれば「この著名人が使った場合、どの程度宣伝してくれるのか?」、BtoBであれば「この企業が使う事で何社獲得できそうか?」というような数値に換算する必要があるでしょう。それが広告費や販促費よりもリーズナブルなのであれば投資対効果はpayするでしょうし、広告費や販促費をかけた方が良いのであれば、単純値引きに他なりません。
なお、いずれのケースでも一度安値を提示してしまうと、値崩れして結果的に正規の値段に戻せなくなるケースがあります。ですので、自社の価格感が維持できるかどうか、という観点でも検証しておくことをお薦めします。
以上、値下げをしてでも受注するパターンをまとめてみました。
代表的なパターンとして、次の四つがありますが、どれも注意点を忘れないようにして頂けると良いのではないかと思います。
1) 商品開発投資
2) 固定費負担を減らす
3) 顧客開拓
4) ブランド確立