シナプス後藤です。

EV:電気自動車が普及しないのは、ひとえに「電気」の取り扱いが様々な意味で不十分だからでしょう。恐らく、主要な要因は3つくらいかと思います。
1. 電池が単体としてガソリンに変わるレベルで自動車を動かす力を身につけていない。
2. 充電の時間がかかる
3. ガソリンスタンドのようなインフラが整っていない

どれも技術的には同じようなところからきているのでは、と想像はしていますが、いずれにしても、単独企業ではなかなかクリアできない課題が山のように存在しています。

前々から、「そういう事なら電池交換式にしてしまえば良いのでは?」とボヤっと思っていましたが、どうやらそういうモデルがあるようですね。
※多分、こんなことを思いついた人は自動車業界の有識者だけでも1万人くらいいるのではなかろうかと思いますので、アイディアには価値が無い、というのも良く分かります。


ベタープレイス、という企業がシリコンバレーにかつてありました。
wikipedia「ベタープレイス」

かつて、と言うのは2013年に解散表明しているからです。恐らく、事業立ち上げが早すぎて資金が持たなかったのでしょう。

ベタープレイスはまさに電池交換式を提案しているもので、「電池の所有はベタープレイスとして、自動車メーカーは標準仕様に合わせて電池を搭載する」というものです。収益モデルは、チャージした電気量に合わせてフィーを取る、と言う形で、携帯電話の通話料のように電気量を収集し、ベタープレイスの売上とします。その分、バッテリー充電と提供を行うわけです。
もともと、電気はガソリンに比べて低コスト、と言うのがEVの売りでもあります(正確には調べていませんがガソリンに税金がかかっている分、かなり価格差が出るようです)ので、中間に業者(=ベタープレイス)がいても成り立つわけです。

では、なぜ失敗したのか?
想像するに、自動車メーカーが乗らないからでしょう。ルノーはこのスキームに対してポジティブだったようですが、他の大手メーカーからすると乗る必然がありません。
言い換えれば、自動車メーカーがこぞって乗るようになれば、すぐに上手く行ったと思います。


このようなエコシステム(様々な関与プレイヤーが作りだす生態系)でうまくスタンダード化が出来たのはパソコンでしょう。
今は「Windows機」と呼ばれていますが、その前はDOS/V機やPC/AT互換機と呼ばれていました。ただ、もっとオリジナルな呼び方で言えば、IBM互換機だったのです。IBMが標準仕様を公開するという失策(*1)を犯したために、WINTELと呼ばれるOSのMicrosoft社、CPUのINTEL社が牛耳る世界が出来あがってしまったのです。

スマートフォンでも似たような構造はあるにはあります。Appleは失策を犯しませんが、Googleは標準化を主導しています。ただし、彼らにとっては本体を売っていないため、失策と言う程のものでもないでしょうね。
docomoは失策(*1)を犯すチャンスがありました。それは、i-modeを含む携帯電話の仕様です。彼らが標準化をし、ライセンスフィーを取らず、他社にも提供していたら、もしかすると今のスマートフォンの基本仕様はdocomo仕様になっていたかもしれません。

*1:標準化によってIBMはPC市場で大きくシェアを落とす事になりました。但し、この施策が無ければ、PCの普及スピードはもっと落ちていたかもしれず、どちらが良かったかは分かりません。


同じようにトヨタ辺りが失策を犯せば、或いはベタープレイスのようなモデルが成り立つかもしれません。
日産は電気自動車「づくり」の面では今のところ他社をリードしているように見えますが、普及するかどうかは結局エコシステムが成り立つかどうか、にかかっています。
そして、いまのところこのエコシステムを成り立たせたい積極的なプレイヤーは見当たらないように見えます。
50年前なら通産省(今の経産省)が主導していたかもしれませんが、下手に自動車のエコシステムを崩すと大きく雇用を失いかねず、無理が出来ないと言うのも実情でしょう。


個人的には、自動車メーカー各社が独自で頑張る、というよりもベタープレイスのような仕組みを入れた方が普及は上手くいくだろうな、と思います。理由は、今の電気にはどうしても制約が存在するからです。
但し、その時に自動車メーカーが儲かっているか、と言われるとIBMがWINTELに持って行かれたように覇権が移るだろうな、と思います。言い換えると、そもそも「電気」というエネルギーは自動車メーカーの理想的な出口ではないと言う事なのかもしれませんね。