シナプス後藤です。

先日、農業経営は難しく、事業として儲からない理由は二つ、と書きました。
[1] 産業として儲からない構造になっている
[2] ボラティリティが異常に高い

このうち、[1]の話です。


まず、ビジネスの大前提として儲かる業界と儲からない業界が存在します。これを分析するには、M.E.ポーター教授が提唱している5Forces分析が分かりやすいでしょう。
自社を取り巻く5つの「力」によって儲かるようになっている、或いは、儲からなくなっている、という構図です。

儲かる業界の代表例は製薬メーカーでしょう。(勿論、全ての企業が儲かっていると言う事ではなく、標準的に経営していると利益率が高い、ということを意味しています。)

医薬品は代替品が少なく、飲まないと宜しくない、場合によっては死んでしまうため、買い手側からは「いくらでも買いたい」という力が働きます。ですので、基本「言い値」でも出来る商売ですが、さすがにそれでは社会道義上問題が起こりやすいので、国が規制をかけています。規制をかけなければ儲かる会社はもっと儲かるでしょう。
ここでは5つの力全ては説明しませんが、基本的に儲かる構造を持っている、という事です。

儲かりにくいのは、パソコンの製造でしょうか。最近では、EMS(製造受託)が力を付けてきており必ずしも儲かりにくい、とは言えませんが、構造上は難しかったビジネスです。
もともと買い手側から見ると差別化要素が少なかった上、Windows、Intelという二大巨頭が高い利益率を取っていたからです。利益率というのは、見方を変えると「参画プレイヤー同士の利益の取り合い」です。だから、たくさん利益を取っているプレイヤーがいると相対的に他のプレイヤーは儲からなくなります。


これが農業にもどうやらあてはまるようです。

まず、顧客との関係性を考えると、多くの農作物はコモディティです。勿論、ブランド野菜やブランドフルーツ等もありますが、それは全体の中では一部でほとんどは「米なら米」「トマトならトマト」と差別性がありません。だから、需給バランスによって価格が決まってきます。
冬に野菜が高くなる、というのは供給が少なくなるから、だけの話でそれ以外の付加価値が付いたわけではありません。

一方で、参画プレイヤーどうしの利益の取り合いはどうでしょうか?
詳しくは調べていないのですが、どうやら、幾つかのプレイヤーは収益率が高く、そこが圧迫しているような印象です。
例えば、種苗業界はどうでしょうか。
種苗業界の大手っぽいところを幾つか見てみますと、例えば、サカタのタネは、2013年の有価証券報告書によると国内卸売事業(それがサカタのタネの日本における種苗事業と思われます)の売上高は158億円、営業利益が56億円と、実に営業利益率35%です。
また、タキイ種苗は、パッとネット検索すると2011年で売上高462億円、経常利益が53億円で、約12%の経常利益率になります。(*1)

また、農薬もかなり利益を上げていると聞きます。農薬は化学メーカーの1事業の場合と、農薬を週事業としたメーカーとが存在しますが、後者の方が分かりやすいでしょう。
例えば、
・日本農薬:売上422億円、経常利益61億円で約15%の経常利益率
とかなり儲かっているようです。
(他にも、石原産業やクミアイ化学工業などもありますが、こちらは10%以下の利益率なので、そこまで収益を上げているわけではないかもしれません。)


では、なぜ彼らが儲かっているのでしょうか?
実は私はここの構造は良く分かっていないのですが、どうやら、JA(農協)の政策が影響していそうな気配です。農家が補助金も含めて「そこそこ」儲かっている状態であれば、周辺のビジネスに対する強い圧力が働かないのかもしれません。
通常、経済合理性だけで考えると、よりやすい種、より安い農薬の調達に動きそうなものですが、「JAお墨付き」のようなものが価格に優先するのだとすれば、それが参入障壁にもなるし、高い収益構造を維持できるということになるのかもしれません。


もう一つは、農業法人が大手が少なくほとんどが個人でやっている「農家」であることが挙げられるでしょう。小さなプレイヤーは価格交渉力が弱いため、調達に対する価格圧力がかけられない、というのが実態ではないでしょうか。

というように、現時点ではとにかく「儲かりにくい」業界になっていそうな気配です。

(*1):https://job.nikkei.co.jp/2015/corp/00010786/index/guest
 国内の種苗事業だけではないが主力事業でもあるので代替指標として利用した。


参考: mblog 「農業経営が難しい理由」
参考:mblog 「農業が本質的に難しい理由:ボラティリティ」