シナプス後藤です。

ちょっと前の話ですが、「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」という本を出版社の方よりご送付いただきました。(いわゆる、「献本」というものです。)



バタついていてゆっくり読めませんでしたが、先日拝読したので感想などを。

まず、この本は、マーケティングにおけるポジショニング戦略の本です。星野リゾートの星野佳路社長が前書きで「まず第二章まで読み進めてほしい」と書いていますが、まさに理論とエッセンスがこの二章までに詰まっていて、役に立つかどうかの判断がつくでしょう。


ポジショニングとは、顧客の頭の中に商品・サービス(場合によっては企業)のイメージを植え付ける活動を指します。よく、十字マップを書いてポジショニングを示す事がありますが、その目的は競合との違いを顧客に理解してもらう事です。
「ポジショニング」
「ポジショニングマップをどのように書くか?」

実務上、ポジショニングで迷う事として、ポジショニングの軸を何にすべきか、ポジショニングした軸以外の活動にどの程度パワーをかけるべきかが分からないことが挙げられます。
この二つについて、ある程度の回答を示しているのがこの「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」です。

著者は、ポジショニングの方向性は5つある、と述べています。すなわち、
 価格、サービス、アクセス、商品、経験価値
です。

■価格
 価格とは、常に適正価格、最安値で提供するという事です。決して、たまに安売りする、或いは、言われたら値引きする、という事ではありません。常に安く提供することで「あそこで買えば一番安く変えて満足できる」というイメージを付けることが出来ます。

■サービス
 サービスとは顧客にとって必要なものを最大限カスタマイズすることです。つまり、目の前にいる顧客、その人にとって「これはあなたのためのサービスです。あなたが望んでいることを全て提供します。」というイメージを付けることです。

■アクセス
 アクセスとは、商品・サービスの購入が簡単、つまり買いやすい状態を提供することです。買いやすさの代表的なものは店舗サービスによる立地ですが、それだけではありません。心理的なハードルも含めて買いやすい、というイメージを付けることが必要です。

■商品
 商品の差別化は一見分かりやすく見えます。技術に投資をし、他社には出来ない極めて優れた性能や他にはまねできないくらいのたくさんの機能を取りつければよい、と勘違いします。しかし、本当に必要なのは、顧客が知らない優れた商品を提供して刺激や感動を与えることです。

■経験価値
 経験価値とは、企業が顧客に敬意を払い、他の企業には出来ないことをすることです。その結果顧客が起業に対して親密さを感じ、信頼感を持つようになります。


では、どこにどの程度フォーカスすればよいのでしょうか?
戦略とは選択と集中であり、選択されなかったものには投資しない必要があります。一方で、余りに何もしなければ、顧客から愛想を尽かされてしまいます。
ポジショニングの軸を選定する際にはKBFを基準に決めるのが基本ですが、KBFには二つの要素があります。すなわち、「最終的な決め手」と「ノックアウトファクター」です。
例えば、飲食店で考えると美味しい方が良いに決まっています。多くの場合、KBFは「おいしさ」でしょう。一方で、おいしくても、不衛生なお店はさすがに行く気が起きないでしょう。これが「ノックアウトファクター」です。言い換えれば、「ある一定条件を満たして入れば、KBFが最も良いものを選ぶ」というのが一般的な決め方ではないでしょうか。

ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略では、4つのレベルで評価せよ、と言います。4つとは、
・レベルIII:消費者の心を完璧に捉えている状態
・レベルII :競合他社に差別化が出来ている
・レベルI :ノックアウトされない最低水準
・それ以下 :ノックアウトされる
です。

そして、
・自社が最も重要視する軸をレベルIIIに設定
・自社が次に重要視する軸をレベルIIに設定
し、それ以外のものはレベルIに設定せよ、と論じます。
なぜかと言えば、「ノックアウトされない程度に強化する必要はあるが、それ以上強化すると他の軸に影響がでる」からです。最も影響が出るのはコストでしょう。
顧客に離反されないためには、5項目全てをレベルIにする。その上で、再重要な軸をレベルIIIに、次に重要な軸をレベルIIまで投資し、それ以上の投資はしない(他のレベルIをレベルIIにしようと努力するぐらいなら、最重要軸に更に投資して、他社をより引き離すべき)のが但し意思決定でしょう。


これらを実現するためには4Pやそれを実行する人材への投資が不可欠になりますが、このファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略は、あくまでポジショニング戦略の一つの考え方、と捉えると当たり前の話ですね。


なお、本書自体は、かなり小売や店舗型サービス業の事例が多いため、それ以外の業界では若干使いにくさを感じるかも知れません。星野リゾートの星野佳路社長が薦めるのも、彼らがホテルなどの宿泊サービスを基本としており、親和性が高いからではという気もします。
また、5つの軸は、本当にこの軸で良いのか、と言われると、微妙に同じようなものがあったり、「他にもあるのでは?」と考えてしまうなど、若干の使いにくさはあり、人によって腹落ちしない部分もあるかもしれません。(じつは、申し訳ないことに私自身もまだ十分に理解できていないように思います。)


いずれにしても、
・ポジショニングの軸を何にすべきか
・ポジショニングした軸以外の活動にどの程度パワーをかけるべきか
の2点について、正面から論じている本は少ないので、気になる方は一度二章までをご覧いただければと思います。