シナプス後藤です。

文具メーカーPLUSの商品で、ヒット商品番付にも挙げられた「フィットカットカーブ」というはさみがあります。
http://bungu.plus.co.jp/sta/product/cut/fcurve/

この商品は破壊的イノベーションのちょうど逆を行った漸進的イノベーションとして華々しく成功したように感じます。


日本国内に限って言えば、はさみに限らずほとんどの文房具は成熟した市場になっています。理由は、日本市場そのものが成熟していて、「いまさらはさみが無い人、家、オフィス」は少ないでしょうし、更にIT化によっていわゆる文房具は必要が無くなってくるわけですし、人口減少化においては、成長そのものが難しくなるというトリプルパンチです。

成熟市場の中でブレイクスルーを起こすには、一般的認知としてはブルーオーシャンの発見や破壊的イノベーション、つまり新しい価値の提供によって市場を開拓すると思われています。今までの競争ルールとは違うルールで新しい価値を作る、それが破壊的イノベーションです。
ところが、フィットカットカーブは、「切る」というはさみが持っている本質的機能、本質的価値を深化させたものであり、漸進的イノベーションと呼ばれるたぐいのものですね。


一般に、破壊的イノベーションが起こるのは、「顧客の期待する機能レベルより、商品の提供する機能レベルが勝った状態」がきっかけです。いわゆる、「過分な機能提供」が起こっているわけで、そうなると「もうその機能はいいから新たな価値を出してよ」となるわけです。
はさみだって、紙が切れればそれで十分だろうと。

ところが、PLUSは違いました。はさみでもっと切りたいものがある。例えば、段ボールとか。成熟市場なので顧客が期待する機能レベルは十分満たしている、と思ったら、実際は「もっと高い機能が欲しい」と思っている顧客がいたのです。

それに真摯に答えたのがPLUSであり、出来ないと思っていた機能の深化を実現した技術力が彼らの競争優位の源泉かもしれません。


「新しい価値」は勿論大事ですが、他社が諦めた本質的価値の向上、漸進的イノベーションは、売上拡大の可能性が十分考えられます。
なぜなら、イノベーションのジレンマやイノベーションへの解でクリステンセンが述べている通り、「顧客の期待する機能レベル」は少しずつ上がるからです。そして他社が本質的価値の向上を諦める頃には、「顧客の期待する機能レベルが、商品の提供する機能レベルを超えている」ということは十分に考えられます。


破壊的イノベーションを狙うのも手ですが、成熟市場だからこそあえて「本質的な価値を向上させる」という技術深化も一つの重要な選択肢なのではないでしょうか?