シナプス後藤です。

私はホワイトボードが好きです。
恐らく、私が最初にホワイトボードを使ったのは、大学院時代だったような気がします。
その時はまだホワイトボードとは、板書をするためのものでした。

会社に入り、ホワイトボードは徐々に私にとって魔法のツールに変わってきました。言いたい事を伝えるためには、言葉だけでは難しい。特に、当時システムエンジニアリングに携わっていた私は、構造やロジックを伝える方法として「図示」が必要です。
それを行うためのツールがホワイトボードでした。

まだ、私が「ファシリテーション」という言葉に出会う前、会議の善し悪しを決めるのはホワイトボード・ワークだと信じていました。ファシリテーションの技術を人に説明する立場になりつつある今でも、ホワイトボードが極めて重要なツールであるという認識は変わっていません。むしろ、ホワイトボードの有無によって私の生産性は倍くらい違うのではないか、と思っているほどです。


ホワイトボードは、幾つかの進化の方向がありますが、大きく言えば、
・書くスペースの拡大
・記録、共有
の二つでしょう。
これを最初に実現したのがおそらく、沖電気工業の「かわら版」です。

第16回 OA事業部のアイディア商品「かわら版」
http://www.oki.com/jp/130column/16.html

この商品が最も画期的だったのは、ホワイトボードに書いた内容をその場で印刷して配布できることです。書記がいるような大きな会議は別にして、普段の会議で「書記」と呼ばれるようなただ書くだけの人を置く余裕はありません。だから、会議が終わった後には皆がノートに書き写す、と言う作業が発生します。
最後だけでなく、情報量が多ければ、「一枚書くごとに」書き写す作業が発生するでしょう。それを大きく軽減し、会議の生産性を飛躍的に向上させたツールだったように思います。
更に言えば、かわら版は移動式シートを採用しているので、(上記サイトによると)5枚分の記載が出来ます。だから、「書いては消して」という作業をしなくてもたくさんの情報を記載できるわけです。

書くスペースの拡大は裏表面のホワイトボードや壁一面のホワイトボードなどに進化します。
そして、記録、共有としては、A4の紙を使えるようになったり、カラープリンタになったり、最近ではUSBやSDカードなどにデジタル映像を保存できるようになりました。
主に、ハイテクはこの記録、共有領域に進化していきます。もうあるかもしれませんが、今の技術で考えれば、ホワイトボードに記載された情報を画像データにして無線でPCと共有する、と言う事も出来るでしょう。
テクノロジーの進化を考えると、それくらいの事は当然出来てしかるべきわけで、更に進化すると、書いた瞬間にPCに保存できるような状況にまで進むかもしれません。


しかしながら、それが必要なのか?と言われると、ここ数年、必要なくなってきているように感じます。少なくとも、ホワイトボードの機能としては。

私は数年前にデジタルカメラを買いました。目的は主に、ホワイトボードを撮影するためです。当時(今でも基本的な嗜好は変わっていませんが)、携帯電話のカメラ機能は極力抑えて軽量化したものを購入していたので、携帯電話のカメラが余り役に立たなかったのが購入した理由です。
しかし、iPhoneをはじめとして、今出回っている多くのスマートフォンのカメラ機能はホワイトボードを撮影するには十分な機能を有しています。つまり、ホワイトボードの機能として「記録・共有」が必要なくなったと言う事を示しています。


では、ホワイトボード自体はどうなのか?タブレットやスマートフォンの性能向上に伴い、そもそもホワイトボードの価値自体無くなってしまうのではないか?
残念ながら、ハイテクとはいっても現在のテクノロジーでは手書きを超えるものはまだ実用化されていないでしょう。「自分が考えたことを共有する」ための方法として現時点で最も使いやすいのは手書きです。思考のスピード、表現力を受け止めるには手書きがまだ優れている。
そして、その手書きの力を発揮できるのはホワイトボードがまだまだ強い。書きやすさと、そのボードの大きさによる見やすさ、でしょうか。
つまり、ホワイトボードにはまだまだツールとして極めて本質的な価値を保有しているわけです。


1-2年前だったでしょうか?文具メーカー プラスに勤める友人が「後藤さんなら絶対に凄いと思ってくれるホワイトボードがあるんだけど。」と言われて紹介されたものがあります。

それがクルボです。
http://garage.plus.co.jp/product/meeting/crubo/crubo.asp

回る、という機能そのものはかわら版の時代、つまり30年前から存在します。だから、別に凄くもなんともないと思っていました。

ところがです。自分で回してみるとその価値がわかります。驚いたことにホワイトボードを回すスピードが思考スピードについてくるのです。
「この件については先ほど話した、えーと、ちょっとホワイトボード回しますので待って下さい」
というシラけた状態になることはありません。
ベアリングが入っているではなかろうか、と思うほどなめらかに回ります。

2013年6月現在時点において、私が考える最高のホワイトボードはこのクルボです。
このクルボが優れているのはなめらかに回ることを追及してある、と言う事です。捨てたものは記録・共有でしょう。文具メーカー プラスにおいて、記録・共有機能をとりいれるのは外注になるでしょう。それは付加価値を生み出しにく、と言う事でもあります。
「外部に記録が任せられる」のであれば、わざわざわ記録・共有機能をとりつける必要はない、捨てて良いものなのです。


これは、イノベーションのジレンマの話ではありませんし、ブルーオーシャン戦略の話でもありません。いずれも「本来の本質的価値」を研ぎ澄ませていった結果として、能力がより強化されたにすぎません。
ハイテクは様々なものを生み出しますし、今でも重要です。ただし、「自ら機能として実装しなくても良い」という時代が来ているのです。

言い換えれば、本来持っている本質的な価値がローテクで実現できるものなのであれば、勝負のポイントはハイテクではなくローテクにあります。そして、ローテクを追求することでハイテクを実装した機器を凌駕することが可能です。なぜなら、最新ハイテク機器であるスマートフォンやタブレットをほとんどの人が身近に持っている時代なのですから。