シナプス後藤です。
円安の影響が様々なところで出てきています。5/31にAppleがiPadを値上げしたことが話題になりましたが、先日、他の製品も値上げした、というニュースが出ていました。
「米アップルがパソコン値上げ 円安進行で」
円安、だけでなく消費税でも同様ですが、コストは変わらないのに急に売上が下がったり(円安)、支払う税額が変わったり(消費税)して、利益幅としては単純な減少が起こることがあります。
マーケティングの目標として売上を掲げることが多いのは間違いないのですが、企業成長のために重要な数字は、利益です。利益額を獲得するために価格をコントロールすることは極めて多いです。価格施策は売上よりも利益をどう確保するのか、という施策と考えても良いと思います。
■三つの視点で考えるAppleの値上げ
Appleの視点から考えると、
(1) 円安の影響
(2) 価格弾力性
(3) 市場での競争力
の三つで見ていくと良いと思います。
(1) 円安の影響
Appleは米国の会社ですから、US$ベースでPLを作っています。ですので、円安になると当たり前のことですが、結果的に売上が下がるわけです。為替変動と言うのは、自動的に値上げ、値下げした効果とまったく同じインパクトを経営に与えるわけです。
円が一割安くなれば、売上が一割減少したのと同じ事です。仮に、iPhoneが5万円だったとして、1$90円なら、Appleの売上は556$、1$100円なら500$です。コストは変わらないので、単純に利益が56$減ることになります。
海外売上がある企業は基本的にこのリスクを持っています。一瞬だけの取引、例えば、M&Aを実施するようなケースであれば、金融機関に為替リスクを持ってもらう事もできます。しかしながら、継続してビジネスをしている場合は、必ずこのリスクを背負います。
上場企業で考えると分かりやすいでしょう。株式会社が上場すると株主の利益最大化を求められます。ニューヨークで上場すればUS$、ロンドンで上場すればGBP(ポンド)、シンガポールで上場すればS$、上海で上場すれば人民元、そして東京で上場すればJPY(円)です。米国企業であれば、円ベースでどれだけ稼いだとしても、結局為替レートでドルに変えられた結果が企業の利益となり、株主に還元されます。
だからこそ、為替レートが大きな要素を占めるのです。
つまり、儲けるためには値上げが一番簡単な対策なわけです。
(2) 価格弾力性
では、値上げすれば消費者は買うのか?買う人もいれば買わない人もいる、これが当たり前の話でしょう。
価格弾力性とは、値上げをした場合に「どれくらい買わなくなる人がいるのか?」の指標です。値上げで買わなくなる人が多いモノは価格弾力的であり、ほとんど買わなくなる人がいない場合には非弾力的です。
価格は、価値との交換です。ですので、高くなると価値を感じなくなるものや、他の代替品が存在するものであれば、価格弾力的です。
Appleの製品はもともと「高い」と言うイメージが強いようです。ある意味では、顧客が「高くても買う、定価でも買う」ということに慣れている製品です。言い換えれば、あまり価格が重要ではないと言う事なので、多少高くても買ってしまうでしょう。ある意味では、「高いから価値がある」と感じる性質のものかもしれません。
値上げをしても消費者がついてくるのだとすれば、値上げしない手はありません。
(3) 市場での競争力
価格弾力にも通じる話ですが、例えば、iPadが高くなったら、Samsung Galaxy Tabや、Google Nexus7にスイッチするのでしょうか?勿論、一部の方はスイッチするのでしょうけど、多くの場合、Apple iPadだから買う、という指名買いが多いように思います。そもそも、iPadの方が高いのです。市場から、Appleは他社品に比べて競争力がある、と言う事の証明だと思います。
価格は、顧客の財布と言う事で考えると絶対値の部分はあります。但し、他社品も出てきて「市場」として形成されると、市場価格が出来てきます。PCしかり、タブレットしかり、スマートフォンしかり。その中での序列が出来あがりますが、これは「序列」と言う事が重要なのであって、その差がいくらなのか、はその次のステージの話です。
もし、Appleが元々他社よりも安く、今回の値上げで最高値になった、と言う事であれば、大幅に売上を落とす事でしょう。元々の価値評価と価格がひっくり返ってしまったのですから。
ですが、元々が価値が高かったApple品は多少値上げしようとも、「高いが良い」というポジションは変わらないわけです。
だから、(価格弾力の問題で多少は喰われるものの)それほど売上は落ちないものと想定されます。
これら、三つの背景があいまって、Appleとして値上げに踏み切ったのでしょう。これが楽々値上げなのか、苦渋の判断なのかは分かりませんが、今のApple製品の状況からすると値上げは妥当なように感じます。
もう一つポイントになるのは、顧客が「Appleはそういう対応するよね」という事前期待値をもっていることでしょう。もし、低価格戦略をとっているような企業、あるいは、ユーザフレンドリーな日本企業であればこういった期待をしなかったかもしれません。しかし、Appleは時価総額世界No.1でもありSteve Jobsのようなわがまま(≒ビジョナリー)な経営者が作った会社です。差別化戦略と言う事で考えても、或いは、利益を追求する米国企業、と言う事で考えても、日本の消費者は、Appleが値上げすることではサプライズを感じないに違いありません。
このように、価格施策は極めて重要です。その変数を捉え間違えなければ、企業に利益をもたらす、或いは不利益を止めることになります。
参考:価格弾力と価格決定
http://www.mblog.jp/archives/1490229.html
円安の影響が様々なところで出てきています。5/31にAppleがiPadを値上げしたことが話題になりましたが、先日、他の製品も値上げした、というニュースが出ていました。
「米アップルがパソコン値上げ 円安進行で」
円安、だけでなく消費税でも同様ですが、コストは変わらないのに急に売上が下がったり(円安)、支払う税額が変わったり(消費税)して、利益幅としては単純な減少が起こることがあります。
マーケティングの目標として売上を掲げることが多いのは間違いないのですが、企業成長のために重要な数字は、利益です。利益額を獲得するために価格をコントロールすることは極めて多いです。価格施策は売上よりも利益をどう確保するのか、という施策と考えても良いと思います。
■三つの視点で考えるAppleの値上げ
Appleの視点から考えると、
(1) 円安の影響
(2) 価格弾力性
(3) 市場での競争力
の三つで見ていくと良いと思います。
(1) 円安の影響
Appleは米国の会社ですから、US$ベースでPLを作っています。ですので、円安になると当たり前のことですが、結果的に売上が下がるわけです。為替変動と言うのは、自動的に値上げ、値下げした効果とまったく同じインパクトを経営に与えるわけです。
円が一割安くなれば、売上が一割減少したのと同じ事です。仮に、iPhoneが5万円だったとして、1$90円なら、Appleの売上は556$、1$100円なら500$です。コストは変わらないので、単純に利益が56$減ることになります。
海外売上がある企業は基本的にこのリスクを持っています。一瞬だけの取引、例えば、M&Aを実施するようなケースであれば、金融機関に為替リスクを持ってもらう事もできます。しかしながら、継続してビジネスをしている場合は、必ずこのリスクを背負います。
上場企業で考えると分かりやすいでしょう。株式会社が上場すると株主の利益最大化を求められます。ニューヨークで上場すればUS$、ロンドンで上場すればGBP(ポンド)、シンガポールで上場すればS$、上海で上場すれば人民元、そして東京で上場すればJPY(円)です。米国企業であれば、円ベースでどれだけ稼いだとしても、結局為替レートでドルに変えられた結果が企業の利益となり、株主に還元されます。
だからこそ、為替レートが大きな要素を占めるのです。
つまり、儲けるためには値上げが一番簡単な対策なわけです。
(2) 価格弾力性
では、値上げすれば消費者は買うのか?買う人もいれば買わない人もいる、これが当たり前の話でしょう。
価格弾力性とは、値上げをした場合に「どれくらい買わなくなる人がいるのか?」の指標です。値上げで買わなくなる人が多いモノは価格弾力的であり、ほとんど買わなくなる人がいない場合には非弾力的です。
価格は、価値との交換です。ですので、高くなると価値を感じなくなるものや、他の代替品が存在するものであれば、価格弾力的です。
Appleの製品はもともと「高い」と言うイメージが強いようです。ある意味では、顧客が「高くても買う、定価でも買う」ということに慣れている製品です。言い換えれば、あまり価格が重要ではないと言う事なので、多少高くても買ってしまうでしょう。ある意味では、「高いから価値がある」と感じる性質のものかもしれません。
値上げをしても消費者がついてくるのだとすれば、値上げしない手はありません。
(3) 市場での競争力
価格弾力にも通じる話ですが、例えば、iPadが高くなったら、Samsung Galaxy Tabや、Google Nexus7にスイッチするのでしょうか?勿論、一部の方はスイッチするのでしょうけど、多くの場合、Apple iPadだから買う、という指名買いが多いように思います。そもそも、iPadの方が高いのです。市場から、Appleは他社品に比べて競争力がある、と言う事の証明だと思います。
価格は、顧客の財布と言う事で考えると絶対値の部分はあります。但し、他社品も出てきて「市場」として形成されると、市場価格が出来てきます。PCしかり、タブレットしかり、スマートフォンしかり。その中での序列が出来あがりますが、これは「序列」と言う事が重要なのであって、その差がいくらなのか、はその次のステージの話です。
もし、Appleが元々他社よりも安く、今回の値上げで最高値になった、と言う事であれば、大幅に売上を落とす事でしょう。元々の価値評価と価格がひっくり返ってしまったのですから。
ですが、元々が価値が高かったApple品は多少値上げしようとも、「高いが良い」というポジションは変わらないわけです。
だから、(価格弾力の問題で多少は喰われるものの)それほど売上は落ちないものと想定されます。
これら、三つの背景があいまって、Appleとして値上げに踏み切ったのでしょう。これが楽々値上げなのか、苦渋の判断なのかは分かりませんが、今のApple製品の状況からすると値上げは妥当なように感じます。
もう一つポイントになるのは、顧客が「Appleはそういう対応するよね」という事前期待値をもっていることでしょう。もし、低価格戦略をとっているような企業、あるいは、ユーザフレンドリーな日本企業であればこういった期待をしなかったかもしれません。しかし、Appleは時価総額世界No.1でもありSteve Jobsのようなわがまま(≒ビジョナリー)な経営者が作った会社です。差別化戦略と言う事で考えても、或いは、利益を追求する米国企業、と言う事で考えても、日本の消費者は、Appleが値上げすることではサプライズを感じないに違いありません。
このように、価格施策は極めて重要です。その変数を捉え間違えなければ、企業に利益をもたらす、或いは不利益を止めることになります。
参考:価格弾力と価格決定
http://www.mblog.jp/archives/1490229.html