シナプス後藤です。

黒田さんが日銀総裁になったと思ったら、一気に施策をたたみかけ実行していることで、市場の反応含めて経済界では大きな話題になり、いまだに好調に推移しているようです。

彼の施策が大胆なのはその言葉「戦力の逐次投入はしない」に表れていますね。


戦力の逐次投入は、戦略論では愚策の一つに数えられています。戦争関連の物語だと、大体駄目な将軍はこれをやって「あいつアホだよね」と言われます。

では、なぜ駄目なのか?

戦闘における勝敗は基本的に戦力によって決まります。
・でかい奴と小さい奴が殴り合えば、大体でかい方が勝つ。
・2人対1人で喧嘩すると大体2人が勝つ。
・戦車に乗った奴と拳銃一丁の奴では大体戦車が勝つ。
勿論、個別には一見弱い方が勝つケースもありますが、平均値をとると戦力は大きい方が良い。
戦力の逐次投入の愚は、でかい奴一人に対して、
・とりあえず一人送り込んで様子見 → 負け
・駄目ならもう一人送り込んで相手の弱点を調べ → 負け
・もう一人送り込んで戦う → 負け
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というように常に個別の戦闘では負ける状態で戦力を投入していることです。
こんなことをやるくらいなら、でかい奴一人に対して、ちいさくても100人で同時に戦った方が良い。


では、なぜ駄目だと分かっているのにやってしまうのか?

戦略論におけるもう一つの駄目なパターンとして「臨機応変になれない」「予備戦力を持たないこと」があります。
戦場は常に変化し続けるので、単調な打ち手をやっていては負けます。たとえば、敵が城壁高く強固に籠城している時に兵団を送り込んでも討ち死にが増えるばかりです。そういう時は、それこそ「小戦力で様子見」等は重要な打ち手です。
臨機応変に戦況の変化に対応するためには大本営が自由にコントロールできる戦力を持っておくというのは必要なことなのです。
また、予備戦力も近しいのですが、「あとひと押しで戦況がひっくり返る」「予想外のところに新手の敵が現れて対応が必要」「大本営が強襲された」と言う時に予備戦力を持っていないとそれだけでノックアウトされてしまう場合があります。サッカーで言えば、ゴールキーパーまで敵陣に乗り込んでしまうようなもので、相当のリスクはあります。

と言うようないわゆるリスク側を考慮すると、全ての戦力を一気に投入する、と言う事が出来なくなります。

なぜそうなるのか?

それは、戦況を読み切れていない、やっていることに自信が無い、と言う事ではないでしょうか。

今回に関して言えば、もし「やれることを全部やって市場が何も反応しない、或いは逆反応に触れてしまった」場合、やることをやってしまったのでもう打つ手がありません。大本営丸裸で敵本拠地に攻め込んでいるのですから、それで落とせなければもう死ぬしかない。
それが怖いからどうしても逐次投入になってしまいます。


恐らく、「やれることをやっても変わらなければ、戦力をとっておいてもどうせ変わらないから結果は一緒」という腹のくくりがあるのでしょうね。
それと、「これで行ける」という自信があるのだと思います。

勿論、戦力を一気に投入するのはリスクがあります。失敗したら全滅の可能性もある。でも、そのリスクを取ってどこかで勝負をかけないと負けないけど勝てない、ひいては戦争においては国力疲弊、経済においては不景気のまま、というのは変わらないでしょう。


経済の専門家ではありませんので、その施策そのものが正しいかどうかは判断がつきませんが、少なくとも打ち手の実行と言う意味だと極めて正しいアプローチのように思います。