シナプス後藤です。

内田和成さん(早稲田大学ビジネススクール教授 )が次にように書いていました。
5年後に花開く商売のネタをどう探すか


新規事業のコンサルティングで、顧客から「今後、どの市場が有望か調査してほしい」と依頼されることがある。私はこれを“死のパターン”と呼んでいた。というのも、膨大な無駄が発生するだけでなく、何も決まらないケースが多いからだ。例えば縦軸に顧客、横軸にその会社の持つ技術でマトリクスをつくり、一つ一つの市場性を網羅的に分析したとする。その結果を伝えると、「なぜここの市場は小さいと判断できるのか」「このセグメントは、もっと分解できるのではないか」と、さらに分析を要求される。そうやってたまねぎの皮をむくかのごとく調査を重ねるうちに、最初に提案した市場に他社が新規事業で参入した、というケースが後を絶たなかった。


企業側のニーズ、担当者の気持ちは良く分かります。新規事業は難しい、と言われていますので、「外した領域に取り組んだらどうしよう?」とか「どうせやるなら最も有望なところでやりたい」とか思うわけです。

そして、まず考えるのは、アンゾフのマトリクス、或いは、製品を「技術」に置き換えたマトリクスです。
評価は大体、3Cの視点で行うでしょう。市場規模は大きいか?ニーズはあるか?業界の収益性は?競合は強いのか?自社のリソースは活かせるのか?


それがいけないと言うわけではないのですが、内田さんが書かれている通り、膨大な時間とコストがかかった末に出た結論は、「どうも納得できない」と言う事は往々にしてあるでしょう。
言わば、青い鳥症候群の一つですね。

新規事業において、魅力的な市場、と言うのは確かに存在します。
少なくとも成熟市場よりは成長市場の方が機会は多いです。成長市場は「需要>供給」ですから、ある程度チープであってもその瞬間は儲かることが多いわけです。
また、顧客が5人しかいない市場より、1億人いる市場の方が儲かります。前者だと、一人1万円買ってもらっても売上は5万円、後者は一人1円でも売上は1億円です。だから多くの部品供給メーカーは、携帯電話(スマートフォン含む)、自動車を志向するわけです。パイが大きければ儲かるだろう、と。
更に、本質的ニーズのあるところはニーズが必ず存在するので機会があることが多いです。命、健康にかかわることや、食欲、性欲、睡眠欲に関わること、或いは、衣食住等、人間が活動する上で基盤となっているような所は市場が大きいうえに要求も多岐にわたるのでチャンスは多いですよね。


では、新規事業の対象領域をどのように選べば良いのでしょうか?


まず、対象領域は、決めの問題と考えています。これは企業におけるビジョンやミッションと呼ばれる類のものと同じです。「世の中のどんな領域に価値を提供するのか?」は往々にして創業者、或いは、時の経営者が決めるだけです。
ただ、決め方としては「世の中の困っている人たちに価値を提供する」など考えているのではないでしょうか。
決めるにしても最低限の条件はあって、
・希望する事業規模を満たすような顧客数が存在する
・顧客ニーズが存在する
の二つは必須です。

例えば、「某離島に住んでいる人たちに向けた新規事業を立ち上げる」と決めるのも一つの選択肢ですが、売上100億円はまずもって望めないでしょう。人口100人だったとしても、一人1億円出すとはとても思えないからです。
100億円のビジネスを作りたければ、少なくとも100万人単位のユーザが存在するようなビジネスを志向するのが必要でしょう。
一方で、ニーズがなければビジネスとして成立しません。たとえば、「火星でプレイするためだけに開発されたサッカーボール」というビジネスを志向したとしても買う人はいないでしょう。そこにニーズがないからです。(よほどの物好きは買うかもしれませんが、本来のニーズとは違いますので割愛)

この領域を決めるのは経営の意思、或いは、新規事業のリーダーの意思でしょう。


「領域を決めたとしても魅力的なニーズがなかったら困るのではないか?」
という疑問は出ると思います。
ですが、全くない、と言う事は恐らく無いでしょう。だから、決めてしまえばいいのです。
その上でもし、成功確率を挙げたいのだとすれば、
・成長市場(或いは、もうすぐ成長市場になりそうな分野)
・人間の本質的ニーズに関わるところ
の二つの観点から見ていくと良いと思います。


いずれにしても、どのような事業領域にもほぼ必ず新規事業の機会はあります。なぜなら、人間は飽くなき欲求があり既存のものより依りよいモノを必ず求めますし、人間は多様なので、「ある人が100%満足する物は他の人は何らかの不満がある」からです。

だから、内田さんが書かれている通り、
一方、成功する新規事業は逆のアプローチを取る。これをやりたいという思い、これなら売れるはずだという仮説やプロトタイプが先にあって、「これをやりたいが、本当にそこに市場はあるのか。競合はどうか」という裏付けを求める形で分析を依頼される。

というパターンがやりやすいと思います。
どこに言っても成功する要素はあるわけなのですから。

同じコストをかけるなら、「どこが最も魅力的か?」という網羅的な分析よりも「ここで儲かる事業をどうやったら作れるのか?」を考える方が建設的ではないでしょうか?
正直に申し上げて、一番魅力的な領域と二番目に魅力的な領域は、ほとんどの企業において大差はありません。どちらもとても魅力的なはずです。1番目と10000番目は勿論違いますが、それくらいの判別は高いコストをかけてやるまでもないでしょう。


つまり、新規事業においてどの市場が有望か?という質問に対しては、
・成長市場(或いは、もうすぐ成長市場になりそうな分野)
・人間の本質的ニーズに関わるところ
が魅力的だが、それ以上はどこも大差ない、という事です。


なお、自社が競争優位性を獲得できるか、という観点を考えると、やはり自社の既存事業の周辺領域が一番獲得しやすいです。なぜなら、何らかの既存リソースが使えることが多いからです。
そういった意味では、決めるにしても「なるべく既存事業の周辺を」と言う事をお薦めしています。