シナプス後藤です。

半導体大手、ルネサスエレクトロニクスの経営再建に対して、産業革新機構を中心に日系自動車メーカーのトヨタ、日産、ホンダや電機メーカーのパナソニック、キヤノン、さらには自動車部品メーカー等多数が共同出資する、と言う話が持ち上がっています。
ロイター「ルネサス再建で産業革新機構など官民が出資案=関係筋」

ルネサスエレクトロニクスは、「日の丸半導体」とも言われ、NEC、日立製作所、三菱電機の半導体部門が統合して作られた企業です。
2011年の東日本大地震では、東北エリアにあった工場が停止したため、かなり多くのメーカーが影響を受けたようですが、ルネサスが作っているマイコンは性能が高く、最先端部品は他メーカーでは代替が難しいようです。

ただ、そのルネサス自体がそもそも7期連続の赤字、2012年度も赤字を見込んでいると言うかなり経営的には苦しい状態です。

その再建のために、米大手投資ファンド KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が約1000億円の出資提案をしていました。それに対する対抗提案として、産業革新機構が手を挙げた、と言う事でしょう。


ルネサスの赤字の理由は、システムLSIの不振、と報じられていますが、そもそも論として、事業で利益を得られない構造になっているのが原因のように思われます。
内情に詳しくないので想像で書きますが、一般に半導体は安く大量に作ってコストダウンによって儲けるか、高付加価値品を高く売るか、つまりコストリーダーシップ戦略か差別化戦略かいずれかのスタンスを取ることが基本です。
ところが、ルネサスの得意とするところは、主に日系の自動車メーカー、電機メーカーに対して、独自仕様に合わせた高付加価値カスタマイズ品を提供することです。であれば、高く売れば済むことなのですが、メーカーとの力関係から買い叩かれて結果的に安値受注し続けてきたという事なのではないでしょうか。
言いかえれば、「安価の標準部品を代替できるほどには高付加価値ではない」と言う事です。

KKRが再建に入ると恐らく最初にやることは「儲からない部品を切り捨てる」事でしょう。日系メーカーとの「今までの関係性」や雇用の確保等、切り捨てられない事情があったはずで、こういう状況に追い込まれたのだと思います。言い換えれば、儲けるためには事業構造を変える必要があるのです。
そうすると困るのは、今まで安価で高性能な部品を調達できていた、日系メーカーでしょう。日系メーカーとしては、国際競争で勝つためには安価で高性能な部品が調達できなくてはならず、だからルネサスを叩いてきたのだと思いますが、今後も彼らに提供してもらわなければならないのです。

だから、産業革新機構を中心としたスキームに乗りやすい、と言うわけです。


では、このスキームだと経営状態は改善するのでしょうか?
想像ですが、多分難しいでしょう。なぜなら、ルネサスの経営改善は株主になろうとしているメーカー群にとって利益相反となる可能性が高いからです。一番簡単なのは「儲かる部品に集中する」か「儲からない部品の価格を上げること」です。いずれにしても、儲からない部品をなんとかしなければならない。
なんとかさせられるのがこれらメーカーなわけです。
そうなると、株主は反対します。反対するとルネサスは赤字のままでいるしかない。

つまり、バリューチェーン全体でみれば、かなり無理がきている構造である、と言う事でしょう。


この意思決定は誰目線で行うかによって答えが変わるように思います。
もし、「ルネサスという事業体を残す」と言うことであれば、大胆な構造改革を行うKKRの方が良いように思います。
また、日系メーカーが戦える状態を創る、と言うことであれば、産業革新機構案の方が良いでしょう。

今の取締役にとってみれば、KKR案では全員クビなので、彼らが残りたいと思うならKKR案は退けるべきでしょう。また、従業員でも「儲かる部門」ならKKR案は結構ハッピーな気がしますが、「儲からない部門」は職を失う可能性も有りますね。

ここまで構造的に厳しい状況だと、全員がハッピーというシナリオはありえません。それは調達を受けているメーカーも含めて。

個人的な意見では、どちらの案も詳しく見ていないので感覚値ではありますが、KKR案の方が妥当になりそうな気はします。構造的に儲からない事業はどうやっても難しいと思うので、ルネサスの中に残すべきではありません。本当に必要であれば、メーカーのどこか、あるいは同業他社が買い取るでしょう。
ただ、無理に買い取るよりも、日系メーカーも特注品で賄うのではなく、標準品を使ってスケールメリットを効かせる方が今後の国際競争力の観点からは妥当に思います。(或いは、最終製品まで徹底的に高付加価値化を狙う、と言うのも選択肢ですが。)


いずれにしても難しい意思決定ですね。恐らく、内情を知れば知るほど、もっと難しくなっていくのでしょう。だから、7期連続赤字、と言う事になってしまったのだと思いますが。
感情的には頑張って欲しいところですが、今後、どのように推移するのか、興味を持ってみたいと思います。