シナプス後藤です。

少し前の話になりますが、田端信太郎さんの話を聴く機会がありました。テーマは、「メディア(媒体)の価値って何だろう?」です。iPad等のタブレットPCやスマートフォンがこれだけ拡大すると、紙媒体の意味が無くなるのでは?という事に端を発した議論ですね。

田端さんは、米国雑誌社コンデナストのデジタル出版部門の日本カントリーマネージャーで、以前はR25の立ち上げやライブドアの執行役員等もされたご経験のある方です。
田端さんのブログ TABLOG


その中ででた興味深い話の一つに、「雑誌編集者が果たしてきたこと」の紹介がありました。
良い雑誌とは、「全てはあそこから始まった」と言われるようなもの、なのだそうです。世の中には様々な雑誌がありますが、その中でも「ブームの火付け役」となるような雑誌が良い雑誌、という事ですね。

例えば、日本のヨガブームは、Yoginiという雑誌が発信地なのだそうです。
Yogini http://www.yogini.jp/number/item_58.html

ヨガと言えば、インドの修行者がやっているイメージがかつてはあったはずですが、今では女性のエクササイズの一つの形としてブームが広がっています。もともとは米国ハリウッド辺りではやっていたようなのですが、それが徐々に日本でも広まり、爆発したのがこの雑誌Yoginiが出来てから、とのことです。

上記で「発信地」と書きました。発祥地ではなく発明でもなく、発信。メディアの役割とはモノを作る事ではなく広めることです。ですので、何もないところから作りだす機能は基本的にありません。特に取材をベースに記事を作る雑誌であればなおさらですね。

それでは雑誌編集者の役割とは何でしょうか?

優れた編集者は、「それを発信することでブレイクスルーさせる」ことが出来る人、という事ではないかと思います。田端さん曰く、早すぎず、遅すぎないタイミング(表現はこの通りではありませんでしたが)で取り上げることで世の中に受け入れられるのだ、という事です。


では、この「早すぎず、遅すぎないタイミング」はいつなのでしょう。確かに、タイミングは重要です。タイミングが早すぎては誰も理解できないでしょうし、遅すぎると、ブーム自体が去ってしまって誰も相手にしなくなる。
エメレット・ロジャースのイノベーター理論によると、世の中には5つのタイプの人がいる、と言います。
すなわち、
1) イノベーター
2) 初期採用者
3) 初期多数派
4) 後期多数派
5) ラガード
です。

オピニオンリーダーに正しく情報を提供すると、急激に市場が拡大する、というのがイノベーター理論の基本ですが、イノベーションが普及する過程では初期採用者層にオピニオンリーダーが存在する、としています。
つまり、「早すぎず、遅過ぎないタイミング」とは、初期採用者が動くか動かないかのタイミング、能動的に見るならば、イノベーターとわずかな初期採用者しかいないところに対して、他の初期採用者に啓もうしていくのが優れた編集者の優れているところでしょう。

イノベーターは、自分自身が良いと思うものを自分自身が楽しむために利用します。彼らは他者へ影響を及ぼしたい、という欲求があるわけではなく、自分がやっているものがニッチであることを認識しているケースも多々あります。
ヨガで言えば、元々はインドの修験者が行っていたようなものであり、宗教家が行っていたように思います。例えば、90年代に大ヒットしたカプコンのゲーム「ストリートファイターズ供廚任魯茵璽の使い手ダルシムというキャラクターが登場します。
http://www.capcom.co.jp/sfxtk/ch_dhalsim.html#main_menu
元々のヨガのイメージはまさにこの通りだったのであり、修業のためにヨガをやる、という人も多かったように思います。
一方で、yoginiが創刊した2003年-2004年辺りは、ハリウッド、ニューヨーク辺りでエクササイズとしてのヨガが少しずつ流行り始めていたようです。これを一部の人々が真似をしていた、という時にyoginiが登場したのでしょう。

そうすると、「女性の美を追求し、人々の啓蒙する人達」がyoginiという雑誌の周辺に集まり、様々な活動が起こってきます。いわゆるオピニオンリーダー、そして彼ら彼女らが初期採用者なわけです。
初期採用者が飛びつくためには、世の中の環境が後押しする必要があります。たとえば、健康ブームだったり、ヨガのイメージがニュートラルになっている必要があるのです。
そのタイミングがちょうど2003-2004年辺りであり、yoginiを創刊したことがドライブをかけることになるのです。


優れた編集者は、何かの「種」(例えば、ヨガ)を見た時に、時代に合っているか(社会が後押ししてくれる何かがあるか、あるいは、社会に抵抗されるファクターが存在しないか)を考えます。
「種」とは、イノベーター程度の少数が価値を享受しているが、まだ初期採用者には広まっていない何か。価値感だったり、行動だったり、商品やサービスだったり。
そして、オピニオンリーダーとなるような人に刺さるキーワードでその「種」を発信します。

今ではそれがインターネットの媒体にとって代わられるかもしれません。「雑誌」という形を取る必要は必ずしもない。ただ、彼ら優れた編集者がイノベーションを後押ししている、というのは変わりありません。
いや、イノベーションを後押ししている人を「優れた編集者」というのが正しい定義なのでしょうね。


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