シナプス後藤です。

野田佳彦氏が日本の総理大臣となりました。野田さんは、演説がうまい、と言われますが、その力を代表選でいかんなく発揮されていましたね。



先日、家弓正彦の仕事塾「プレゼンテーション2.0」で野田さんの話に触れましたが、彼の演説を纏めてみたいと思います。

野田さんの演説の良さは最後の「どじょうの政治」に尽きると思います。ただ、そこに至るまでのストーリーやテクニック等、様々な要素が重なり合っての「どじょうの政治」ですね。

プレゼンテーションは次の三つで構成されています。
・シナリオ・・・どのようなストーリーで話をするか?
・ドキュメンテーション・・・どのような資料を見せるか?
・デリバリー・・・どうやって話すか?

今回については、完全な演説型で資料提示なしでしたので、シナリオとデリバリーがポイントになりますが、とりあえずシナリオを見てみましょう。

■ シナリオの分析
 野田さんの演説シナリオは次のような流れで構成されていました。
[1] あいさつと全体像の提示・・・政治信条、政治理念の一端を示す
[2] 政治は命がけだと考えている
[3] 政治に必要なのは夢、志、矜持、人情の機微、血の通った政治
[4] 一人ひとりを大切にする政治が重要だ
[5] 一票の重さを痛感、排除の論理は通さない
[6] 中小企業は日本の宝であり、彼らを支援する
[7] 子供手当が必要だ。
[8] 政権政党として削れるところは削るが国民に負担することがあるかもしれない
[9] 「どじょうの政治」を命をかけてやりぬきたい

流れとしては、政治信条や理念を自分の幼少の体験、政治家になりたてのころを話しながら、説明します。途中から、事例を交えて党首の主張として「排除の論理をしない」というほか、政策の主張である、「中小企業支援、子供手当、増税」について触れています。
最後に、「どじょうの政治」としてやりぬく覚悟を伝えています。

シナリオから考える話の良さは大きく3つですね。
a) 構造化されたストーリー
 上述したシナリオは非常に分かりやすく構成されています。
 [1] 話の全体像を説明する(政治信条、理念を示しながら主張する、ということを最初に述べている)
 [2]-[4] 信条、理念の説明
 [5]-[8] 具体的な施策の主張
 [9] まとめ
 また、[2]で「政治家は命がけ」と言い、[9]で「命をかけてやりぬきたい」と主張する等、全体的に話に一貫性が出来ています。
 最後の「どじょう」も冒頭から父、母が農家の末っ子で自分がシティボーイに見えない、というような話から入り「自分は泥臭くカッコ悪い」というトーンを作り出しています。

b) 具体例と主張の繰り返し
 ほぼ全ての話で「具体例」->「主張」を繰り返しています。
 例えば、政治家は命がけの仕事であることを説明する[2]の件です。
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父のトランクの上にお茶碗をのせて、そして食事をした、そういう信仰生活から始めた層です。でも、これからの時代は良くなっていくだろう、という希望のあった、いわゆる三丁目の夕日の時代でございました。
そんな私が初めて政治を意識したのは昭和35年10月、(中略)当時の日本社会党委員長 浅沼稲次郎が日比谷公会堂で刺殺される事件がございました。
私の家にはなぜか白黒テレビがあったんです。オヤジは貧乏だったけど、プロレスが大好きでテレビを買っていました。しょっちゅうニュースが流れていました。怖い刺殺されるシーン、お葬式のシーン。
私は子供心に母に聞きました。
「なんであのおじさんは殺されたの?」
その時に言われた言葉。
「政治家って、命がけなのよ。」と言われた記憶があるのです。

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「政治家は命がけ」を言うなら、「政治家は命がけである」と言えばいいだけです。それだと具体的にイメージがしにくいので、上記のような具体例、自分の目線からの話をしているのではないでしょうか。

c) 共感を呼び感動をさせるストーリー
 上記の具体例は単に「分かりやすさ」を狙っているだけでなく、共感を呼ぶ、感動を起こすことも効果の一つです。
 具体例を出すだけなら、政治家をやっていて無くなった例、JFKだったり、あるいは、日本なら故小渕元首相の事例でも良いかもしれません。ですが、自分の視点で、自分の原典として「政治家は命がけでやるものだと思っている」ということを共感して欲しいわけです。ですから、
「三丁目の夕日」というキーワードで世界観、あるいは、その時代の空気を共有し、そのうえで自分の目で見たことを説明するわけです。聴衆はその話を聞きながら、まるで彼の目線で世の中を見るように、頭の中で映像をイメージしたに違いありません。
この「映像を頭の中でイメージさせるように語る」ことで、左脳・Logicだけでなく、右脳・Passionに訴えかけたのですね。
 なお、この「三丁目の夕日」という表現も絶妙だと思います。彼と同世代、もしくは彼より年上の方はリアルに体験しているからイメージできますが、若い方、40代以下だと共感しにくいのです。ですので、「三丁目の夕日」という多くの人が知っている映画を例に出す事で、体験していない人でも「映像を頭の中でイメージさせる」ことに成功しています。

 これを[2]-[7]の間、ずっと繰り返すわけです。最後の主張に至る時には、プレゼンターと同じような映像イメージを持つことになり、彼の最後の主張「どじょうの政治」が感情で理解できるようになるのではないでしょうか。


改めて見直すと、シナリオが精緻に考えられ、
・伝えなければいけないこと
・言っておかなければいけないこと(民主党の各派閥への配慮など)
・どう盛り上げていくか
がしっかりと練りこまれた演説だったように思います。
国家のトップになるためにはこれくらいのストーリーを描かなければダメだ、と言う事なのでしょうね。


また時間があれば、今度は「デリバリー編」に挑戦したいと思います。