クレイトン・クリステンセン教授が著書「イノベーションのジレンマ」や「イノベーションへの解」で提唱している「破壊的イノベーション」は、「破壊的」というキーワードとその内容の両面から非常に優れた考え方だと思います。

この「破壊的イノベーション」と言う言葉は、言葉の響きがセンセーショナルなので、市場を塗り替えてしまうような技術を「破壊的」と表現する方も多いのですが、クリステンセン教授は一定の定義をされているようです。その前提となっているのが、「破壊的技術」の存在で、その条件とは、
1) ハイクラスを望む顧客と望まない顧客が存在する
2) 技術進化のペースが顧客の要求レベルが上がるペースより早い
3) 二つの技術タイプが存在し、破壊的技術は既存技術(持続的技術)より、性能が劣っている
ということです。

破壊的イノベーション破壊的イノベーションのモデル図


ざっくり説明すると、現時点でなんらか劣っている技術が存在し、基本機能は悪くてもいいから別の機能が欲しいと思っている人たちがそこに流れ、使っているうちに、既存の技術を追い抜いていく、という事ですね。

例えば、iPhoneを中心としたスマートフォンのインターフェースはこれに当たりそうです。純粋に考えると、多分、電話として使うだけなら、今時点でも通常の携帯電話のボタンの方が使いやすい。一方で、最近はかなり良くなったと聞きますが、昔は誤作動もあったタッチパネルはその機能だけ考えると「悪いもの」なわけです。ですが、何かの新しさを求めている人たちがスマートフォンを使ううちに、技術がこなれてきて、いずれ操作性について既存の携帯電話を抜いてしまうだろう、という事です。
恐らく、日本の多くの携帯端末メーカーは、スマートフォン特有の技術開発は遅れていると思われますので、暫くは海外メーカーの端末が中心になるのではないでしょうか?


さて、破壊的イノベーションは、もともと「破壊的技術」をベースにしていますので、技術革新と破壊的技術が一緒になって考えられそうなものですが、技術革新=破壊的イノベーションにならない点が2点あります。

1) 持続的技術でも技術革新は有り得る
 破壊的技術に対する既存の技術を「持続的技術」と言います。これは、既存の技術の延長線上に「各社がしのぎを削って技術開発している」ものです。例えば、電気自動車にも使われようとしているリチウムイオン(Li-ion)電池技術等はこれに当たると思います。恐らく、今よりも格段に容量をもったLi-ion電池を開発できれば、かなり業界を席巻できると思いますが、これは「破壊的技術」の定義からは外れます。
 Li-ion系の技術は様々な企業が取組んでいるので、いずれ何らかキャッチアップされるか、或いは、各社が特許を持ち合っていてクロスライセンス等の縛りが発生するか、ともかく、競争ルールそのものが変わるわけではないのです。(あくまで、電池業界内だけの話ですが。)
 ただ、Li-ion系の画期的な電池が出来れば、世の中を大きく変えるだけのイノベーションにはなると思います。それを「持続的イノベーション」とクリステンセン教授は名付けています。

2) 技術革新が無くても破壊的イノベーションは有り得る
 破壊的イノベーションのポイントは、3点である、と書きましたが、3つめの「既存技術」と「破壊的技術」の二つの技術を「機能」に置き換えると近しい話になります。
 例えば、QBハウスは短時間・格安という価値を提供して成功した企業ですが、特に複雑な技術を持っていたわけではなかったようです。(使っている道具などはかなり特許を取ったという話を聞いた事はありますが。)
 QBハウスは、「洗髪、顔剃りをしてリラックスした時間を提供する」既存の理容店に対して、とにかく伸びた髪を切れば良い、という単純な価値を短時間・低価格で提供したのです。ここに破壊的な価値がありますね。
※QBハウスはブルーオーシャン戦略の事例としても使われますが、基本的な概念は同じと考えています。


しかしながら、多くの技術優位で差別化をしている企業、或いは、ハイテク産業の企業においては、技術革新によってイノベーションを成し遂げたいと考えているのでは、と思います。ただ、技術領域としてかなり深化が進んだ昨今では技術革新だけで勝負するのが難しくなっているのも事実です。そういった難しいビジネス環境の中で、「破壊的イノベーション」を考えると、難しい技術の開発に成功する技術革新だけがイノベーションではない、という事を教えてくれます。


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